オリックス シニア・チェアマンの宮内さんが3分間レッスンの読者のみなさまの質問にお答えします。(2021年4月12日レター)

【読者】運送業を営む社員200名ほどの会社のトップに、外部からスカウトされて就任する予定です。私が見るところ、会社の問題点として、デジタルシフトが遅れていること、営業のやり方が属人に頼っていてシステム化されていないこと、社員のローテーションの効率が悪いことなどさまざまな改革が必要です。そこで、これまでのやり方を変えるためには、経営幹部の降格が避けられないと考えています。

この会社では降格という前例がなかったため、良い意味でも悪い意味でも大きな刺激を与えることになると思います。それでも降格人事を行い、変化の波に対応できる人材を配置して組織改革をすすめ、会社の立て直しを成功させたいと思います。降格人事を行う際に気をつけるべきこと、大事なことはどんなことでしょうか? 宮内さんにご教示いただければと存じます。

降格人事は良い結果をもたらしません

【宮内】降格人事をする際に大事なことは何かとお尋ねいただきましたが、基本的に降格人事はやってはいけないと考えています。降格人事をすべき時は、不正や過ちがあったときです。

まず、ご質問者がやるべきことは、トップに就任したら幹部全員からしっかりと話を聞くこと、そして現場をよく見ることです。そのときに、決して自分の意見を言ってはいけません。何も言わずに、社員たちの話を聞くことに徹することです。そうすれば、これまで外から見ていたのとは違う、会社の本当の姿が初めて見えてくるでしょう。実態を見る前に決めつけてしまっては、真の問題点は見えてこないのではないでしょうか。

こうして実態を掴んでから、静かに改革を始めて、社員たちを引っ張っていかれればいいと思います。降格人事によって「大きな刺激を与えることになる」と書かれていますが、社員にそのような刺激を与える必要などありません。経営の鉄則として、人事と組織を変えるのは、事業を伸ばし、会社を成長させるためであり、適材適所でやるべきことです。初めから人の配置転換や組織を変えたとしても、同じ人が社内でグルグル回るだけであまり効果がありません。

ご質問者にとっては物足りないように思えても、最初から人を降格させるというのは、良い結果を生み出しません。もし、専務の出来が悪ければ、この人を常務に降格させるのではなく専務のまま置いておき、良い人材をじっくり見極めた上で副社長にすればよいのです。適材を引き上げることが肝要です。そのときの秘訣は、「本人の処遇はそのままに、気が付いたら社内のポジションが下がっていた」というような人事を考えるとよいでしょう。

考えてみてください。降格された人はどうなりますか? 家族や友人に何と言うでしょうか? 人事を間違えてしまうと、10の力を持っている人がモチベーションを失くして半分の力しか発揮しなくなるのではなくて、マイナス10となって周りの人々に悪影響を及ぼし、会社の足を引っ張ることになってしまいます。

まだトップご就任前に、問題点を確定させることは得策ではありません。じっくりと社内を知るところから始めてください。

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