オリックス シニア・チェアマンの宮内さんが3分間レッスンの読者のみなさまの質問にお答えします。(2021年7月19日レター)
【読者】IT企業で営業課長を勤めています。幼い子どもがいるため、昨年の春から在宅勤務を始めて1年以上がたちました。会社には月に一度、会議のために出社しています。
在宅では9時から5時まできっちりと仕事に取り組んでいます。12時〜1時の間、昼食をとったあとには子供と遊んでいますが。毎朝夕、仕事内容や進捗について部長に報告しています。
このところ部長から資料作成を命じられることが増えており、夜遅い時間帯に提出した資料を修正するようにとの連絡がくるようになりました。最初のうちは、急な案件なのだろうと対応していたのですが、たびたびこのような依頼が増えた上に緊急でもないようですので、理不尽な要求のように思えてきて、どうするべきか悩んでいます。
会社で机を並べて仕事をしていたときには、こういう理不尽な急ぎ仕事はなかったのですが、在宅勤務になってコミュニケーションが減ったせいか、何のための仕事なのか、なぜ急いでいるのか情報不足なためにモチベーションが下がり続けています。部長に一度、仕事に関する情報をもう少し得たいと相談したのですが、在宅勤務の部下たちを管理するのはたいへんなんだと言われて、とりつく島がありませんでした。在宅勤務中に必要なコミュニケーションをとることができたらと思います。宮内さんはどうお考えでしょうか。
マネジメントの生きた勉強だととらえてください
【宮内】専門性が高いスペシャリストを育てたい、多様な属性を持つ人材を取り込みたい、生産性を向上させたいといった理由で、ジョブ型雇用に移行しつつある日本企業が増えていることはご存じの通りです。
従来型のメンバーシップ型雇用では、新卒を一括採用して労働力を確保し、職務内容は明確化せずに研修やジョブローテーションなどで長期間育成する仕組みでした。一方、ご質問者が勤務するIT企業では、ジョブ型雇用を実践しやすく、在宅勤務が適合しやすい環境が整っていると思います。
ところが、残念なことに、管理職がジョブ型のマネジメントに対応できていないケースが多く見受けられます。これからの管理職は、目の前で働いている部下をマネジメントするのではなくて、姿が見えなくてもモチベーションを与え、成果を判定する能力を身につけなくてはならないのです。
あなたの上司のような管理職の下で働くご苦労をお察しいたします。まずは、月に1〜2回、コミュニケーションの機会を増やす提言をして、上司に在宅勤務中の成果について、理解を深めてもらうよう働きかけてみてはいかがでしょうか。同僚の方々も同じ悩みをもっている可能性がありますので、改善方法を提言されることをおすすめします。
そして、今はしんどいかもしれませんが、上司を反面教師としてじっと観察し、部下ときちんとコミュニケーションをとり、または部下を悩ます上司がどのようなものか、学ぶ機会とするとよいでしょう。部下の仕事のプロセスではなく結果をきちんと評価し、余裕がある人にはもう少し仕事を与え、手一杯の様子なら加減してあげるなど、多彩なマネジメント能力を身に付けるチャンスにしてください。
これまで日本企業では、転勤して経験を積ませたり、成績は悪くても潜在力を評価したり、長期目線で人材を評価してきましたが、ジョブ型雇用では目先の仕事で確実に成果を上げることが重要になっています。
IT企業というジョブ型、リモート型の働き方が最も適した業種の管理職として、今の状態はたまらないと思われるでしょう。嫌な上司、ダメな上司が永遠にいる訳ではありません。管理職修行の場を与えられたと思い、HR能力を高める良い実践の場と心得てください。一段高い視座でマネジメントについて生きた研鑽を積む良い機会だととらえて、将来に備えていただきたいと思います。