オリックス シニア・チェアマンの宮内さんが3分間レッスンの読者のみなさまの質問にお答えします。(2021年9月13日レター)

【読者】中小企業で経理担当として働いています。このまま今の会社で経理の仕事を続けていった場合の将来のキャリアについて悩んでいます。

今よりももっと社会に影響を与えられる企業に転職して、経営に関わりたいという気持ちがあります。あるいは、毎日ルーティンの仕事をするのではなくて、スタートアップ企業で自分の力を試してみたい、新しいことにワクワクして挑戦したいという気持ちもあります。どちらの場合にも、実現するためには、30歳になる前に自分を売り込めるような資格か実績を作らなければならないと思います。

そのためには、たとえば、思い切って今の会社を辞めて海外の大学院でMBA(経営学修士)をとるのがよいのか、今の会社で働きながら日本の大学院でMBAをとるのがよいのか、それとも中小企業診断士のような資格をとるのがよいのか。どの道を選べばよいのか、判断がつかずに迷っています。

終身雇用がふつうだった時代には、企業内でジョブローテーションしながら長期的にOJTで経営人材が育っていたのかもしれませんが、今は、短期間で実績をつくるか、資格をとるなどによって、会社に頼らず、自分の将来を自らつくっていかなければならないと感じています。自分の場合は、新卒で中小企業に入社したので、研修コストなどあまりかけてもらえない可能性が高いため、自身を進化させなければ定年まで今の会社で一経理マンとして無難に勤めるだけになってしまいます。

今の状況から自分を進化させるには、どのような道を選べばよいのでしょうか。日本人で最も早い時期にMBAをとり、その後名経営者となられた宮内さんにアドバイスをいただければと思って投稿しました。

多少無理をしてでも勉強に励むことをおすすめします

【宮内】ご質問者のように向上心をお持ちでしたら、今は何が何でも勉強するべきです。資格を取る、取らないは関係ありません。ご質問者の実力を高めることです。世の中で通用するように自分の専門性のレベルを若い間にどれだけ上げていくか、これが今後のキャリアにとって大切なことです。

「社会に影響を与える企業に転職して、経営に関わりたい」という熱意は素晴らしいと思います。ただ、厳しいようですが、気持ちがあれば経営に関わらせてもらえるかといえば、なかなかそれは難しい。若いうちから勉強し、自分を高めていくしかありません。

経済的に可能なら、海外のMBAでも、日本のMBAでも、ご自身が一番成長できそうだと思うところへ行って、たとえ経済的に多少無理をしてでも勉強することをおすすめします。そうして力をつければ、社会に影響を与える企業に転職することもできますし、経営に関わる仕事にチャレンジする、スタートアップ企業で思い切り自分の力を試すなど、選択の幅が広がります。

残念なことですが、今、先進国の中で、日本のビジネスパーソンは圧倒的といっていいほど学歴が低くなっています。海外では、大きな組織で働くには修士号を持っていることが常識になっており、さらに専門性の高い博士号を持つ人々が組織を動かすようになっています。大学の学部卒で日本を代表する企業に入り、そのままリーダーになることが普通になっていることが、日本の競争力を低下させていると言えるかもしれません。結果的に一つの組織で長く勤めている、というのは良いことだと思います。ただ、同じ組織の中でしか通用しない「社内MBA」しか持てないようでは非常にもったいないことです。

逆に、日本では、博士号取得者が仕事に就けないという深刻なポスト・ドクター問題も起きています。企業が高い専門性を持つ人材を生かせないのは、とても残念なことだと思います。人材の流動性が高まり、高い専門性を持つ人材が横に移動できる社会になれば、企業の成長力、競争力が高まるでしょう。日本企業が早くメンバーシップ制からジョブ型へと移行できることを願っています。

私は1960年に米国でMBAをとりました。当時、日本ではまだMBAについて知られていませんでしたし、私の経歴でこの学位が物をいったことは一度もありませんでした。しかし、米国にはビジネススクールがあり、力をつけたいという向学心と向上心に満ちた学生たちの熱気が溢れていました。この熱気が、その後の経済成長力につながっていくことを感じました。もし今、私が若ければ、Ph.D.(博士号)に挑戦すると思います。今後は、それが当たり前の社会になっていくのではないでしょうか。

お伝えしたかったのは、若い時にご自身の発射台をできる限り高めていくことが今後のキャリアにとって大切だということです。自己研鑽に励み、力を発揮されるよう期待しています。

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