オリックス シニア・チェアマンの宮内さんが3分間レッスンの読者のみなさまの質問にお答えします。(2022年1月10日レター)

【読者】私は、小さなホテルを築いた創業者に長年にわたって総務部長として仕えてまいりました。創業者は、地場企業の法人需要、観光客などの個人需要を掘り起こし、苦労を重ねて一代でホテルを築き上げました。お客様の満足度を高めるために従業員たちを厳しく育てる根っからのホテルマンでしたが、器が大きくて包容力があり、社長を慕う社員は少なくありませんでした。

創業社長が急な病に倒れ、後継者を決めることなく亡くなってしまわれたため、事業継承に問題が起きてしまいました。営業担当の専務・長男と、客室・ブランド担当の常務・次男が、ホテルの経営をめぐって対立するようになりました。

いったんは長男が社長に就任したのですが、新型コロナウイルスの影響もあって業績が落ちたため、立て直しが急務であるとして、役員会議の席上で次男に近いグループが長男グループの責任を問いつめるようになりました。ここに社員として働いていたそれぞれの妻が加わって、骨肉の争いとなってしまいました。社内が2つに割れてしまったことで、社員たちの間にも、このままここにいていいのかなという不安が広がっています。

同族企業の事業承継にこのようなトラブルが生じた場合は、どのように収めるのがよいでしょうか。兄弟同士で話し合って決めるといっても、それぞれのグループができており、なかなか折り合いをつけることはむずかしいことを感じます。

私は、創業社長に採用されて育てていただいたので、社長とともに退社することも考えていましたが、社長に恩返しするとしたら何をすればよいか、総務部長としてはどう行動すべきか思案しております。

名経営者として会社を成長させられた宮内さんにアドバイスをいただけたらと願っております。

“時の氏神”のような存在の方はいませんか

【宮内】このコロナ禍、社長の座を巡って兄弟で争っている場合ではなく、一日も早く経営を安定させることが大事ではないでしょうか。このまま兄弟で争って収拾がつかなくなってしまえば、そのような評判がお客さまの間に広がり、ますます経営が悪化してしまうことが危惧されます。ご兄弟が早くそのことに気づいて、目が覚めてほしいと思います。

ベストな方法として、“時の氏神”のような方がご兄弟の間を仲裁することはできないでしょうか。たとえば、ご兄弟が尊敬している大先輩か、以前から共に知己があってお互いに相談できるような存在の方がいれば、二人の間を仲裁し、立て直しに尽力してもらうことができないでしょうか。

後継者がまだ育っていないときに創業社長が急死されたわけですから、ホテル経営に通じた信頼できる経営者を外部から連れてきて、まずは第三者が経営を担うことが望ましいと思います。ただでさえ新型コロナウイルスでホテル経営が難しくなっている時期です。ここはベテランに託して、その間に長男、次男がともにホテル経営の研鑽を積み、力をつけていけば、自然とどちらが社長にふさわしいかが見えてくるでしょう。

もし、“時の氏神”が見つからない場合は、総務部長であるご質問者が氏神の代わりとなって、二人に目を覚ましてもらうということも一つの選択肢です。先代の社長に恩返しするとしたら、追放されるかもしれないことを覚悟してでも、身を挺してホテル経営のプロフェッショナルを連れてきて、経営を安定させるということです。先代が創りあげたホテルが潰れないようにすることが一番大事です。

このまま争い合っていたのでは、ホテルが潰れてしまいかねません。いまは、一致団結して先代社長が築いたホテルを皆で継承していく方法を考えなければならないと思います。“時の氏神”様が見つかり、事業承継がよい方向に進むように期待しています。

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