オリックス シニア・チェアマンの宮内さんが3分間レッスンの読者のみなさまの質問にお答えします。(2022年2月7日レター)
【読者】IT関連企業を立ち上げて12年ほどたちました。思い起こしますと、スタートアップ前から必死でしたので、12年が一瞬のことのように思います。景気の波は何度もありましたけれども、これまで何とか大過なく事業を成長させることができました。
しかし、昨年度は初めて赤字になりました。DX関連で収益向上が見込めていたのですが、米中貿易摩擦の影響が続いていることと、心ならずも社員の不祥事が起きてしまったことも重なり、収益が悪化してしまいました。
経営者として迷うことは、赤字経営になったこと、社員の不祥事が起きたことといったマイナス情報について、社員のレイヤーとしてはどこまで、そしてどのように社員に伝えるべきかということです。マイナス情報を全社員に正直に公表して、この難局を一緒に乗り越えようと語ったとして、社員に奮起を促せるものかどうか。社員の間に動揺が広がり、会社を辞める社員が出てしまうのではないか。成長を支えてくれている社員を失ってしまうと、追い打ちをかけるように業績が下がってしまうのではないか。このように考えて、正直に公表するか否か、非常に迷っております。
逆に、公表せずに隠していたらどうなるか。何事もなく過ぎればよいのですが、少しずつ水面下で広がってしまう状態になりますと、動揺が一気に広がることはないとしても、社員の間に疑心暗鬼が広がり、経営が信用を失う可能性が出てくるかもしれません。このような場合は、信頼できるほんの一部の幹部のみに知らせるのがよいのでしょうか。
数々の難局を乗り越えてこられた宮内さんなら、どうされますでしょうか。マイナス情報をどこまでどのように社員に伝えるべきか、ご教示いただけないでしょうか。
公表すると同時に、社員に対してポジティブなメッセージを伝えることが大事です
【宮内】企業を経営するとさまざまな出来事があります。事業がうまくいっているときより、悪いときの方が対応に気を配らなければいけません。まず、トップがこの難局をどのように乗り越えるか、ゲームプランを作り、それを率先して実行する覚悟を持つことです。
その上で、会社経営にとってネガティブな情報を社員に知らせず、隠し続けることは難しいと思ってください。赤字になったこと、不祥事があったことはきちんと社員に公表しなければなりませんが、その際に、経営トップが善後策を決めて難局を乗り越えていく方針と、会社は大丈夫だというメッセージを一緒に伝えることが大事です。揺れている経営トップに社員はついていくことができません。
といっても、現場の社員に対しては細かいことを伝える必要はありません。不祥事があり赤字になるけれども頑張るぞというメッセージが伝わればよく、社員の階層によって伝え方の工夫は必要になるでしょう。幹部に対しては、詳細を話すことも必要なのでしょう。経営トップは常に危機感を持っているものですから、常日頃の危機感を社員たちに伝える必要はまったくありません。
難しい局面になったときほど、得てして思わぬ社員が頼りになることがわかったり、またその逆も鮮明に表れるものです。普段はわからなかったことが見えてくる機会でもあります。
経営の舵取りには、良い時と悪い時が多々あります。悪い時に何をするか。これが実に重要です。長い目で見て、社長にとってはとてもよい経験となりますので、この難局を糧にして一段勉強し、乗り越えられることを期待しています。