オリックス シニア・チェアマンの宮内さんが3分間レッスンの読者のみなさまの質問にお答えします。(2021年6月7日レター)
【読者】企業で執行役員を勤めたあと退社し、縁あって上場企業の社外取締役に就任しました。月に一度の取締役会に出席し、経営の状態をお聞きして意見を述べることが主な役割です。
初めてお会いしたときに、社長から「これまでのあなたの経験を生かして、わが社のためにお感じになったことを率直にご指摘ください」と言われました。私は、営業職を長く勤めておりましたので、コーポレートガバナンスの観点からこの会社のために営業部門の問題点について指摘するのが私の仕事だと理解しました。
この会社には利益拡大を急ぐあまり業務執行側がおきざりにしている問題点があると判断したので、私が感じたことを取締役会で正直にお伝えしたところ、社長と営業部門を管掌する専務にとって私が指摘したことは都合が悪かったようで、その後何となく冷たい態度が続くようになりました。私は遠ざけられてしまったようです。
私は自分の役割と信じている行動をとったわけなのですが、今回のできごとから社外取締役がコーポレートガバナンスに関する問題点を指摘する役割は建前上だけで、本音では求められていないように感じました。しかし、それでは、社外取締役を置く意味がないのではないでしょうか。業務執行側にとって都合のいい社外取締役が求められているのでしょうか。
今後、取締役会に占める社外取締役の比率は増えていくと思われます。私はいまの職責について後悔はしておりませんが、今後の心構えのためにご教示いただきたいのです。社外取締役の役割と企業との間の距離感についてどう考えるべきでしょうか。どの程度意見するのが正しいのでしょうか。専門家である宮内さんにご教示いただければ幸いです。
これまで通り、社外取締役の職責を全うされることをお勧めします
【宮内】大前提として、企業の目的は、経済的価値を創造し続け、中長期的に成長して社会に貢献することに他なりません。企業を中長期的に伸ばす役割を果たすのが社長以下の執行部門です。そして執行部門の運営をチェックする機関が取締役会であり、その主導権を握るのが独立社外取締役の役割です。執行部とは一線を画した株主や社会の視点で、中長期的に成長できる経営がされているかを監督します。もし、それができていない場合には、最終手段として、社長に退陣を促すことも社外取締役の重要な役割です。
このようなあるべき姿に照らし合わせてみますと、ご質問者は社外取締役として、正しい役割を担っておられると思います。しかしながら、残念なことに、社長以下の執行部門は、なぜ社外取締役を置くのかが理解できていないようです。執行部門が冷たい態度に変わり遠ざけられてしまったとのことですが、そのように感じる必要は全くありません。
企業との間の距離感についてお尋ねですが、もし社外取締役が執行部門に対して具体的に指示したとすると、執行責任を負わなければならなくなりますから、するべきではありません。あくまでも、このような考え方もあると意見を述べるところで止めておくべきです。
まだまだ日本企業では、制度的に求められているため仕方なく社外取締役を置き体制を整えているというのが実情で、何のために社外取締役を置くのか正しく理解されていないケースが多く見受けられます。コーポレートガバナンスの意義を理解し、監督機能を尊重しなければ、その会社が中長期的に成長することは望めないでしょう。
欧米では、業績を伸ばせなければ2、3年ほどでトップは退陣を迫られます。その際、社外取締役が社長以下執行部門に引導を渡すのです。社長を引き続きやらせるか、辞めさせるか、あるいは次は誰が適任かを決めるのが、社外取締役の最も重要な仕事といっても過言ではありません。
本来は、社外取締役を誰に依頼するかを社長が決めるのもおかしいのです。取締役会の中に社長以外で構成される指名委員会を作り、指名委員会が社外取締役候補者を決定するというのがあるべき姿です。社長と社外取締役の仲が特に良い必要は全くありません。
「経営の問題点について率直に指摘してください」と言われたとしても、執行部門にとって耳障りなことを言われるのは嫌だというのが本音なのでしょう。社外取締役は、その嫌な役割を果たすのが仕事です。
ご質問者のご苦労は想像するに余りありますが、辛くてもこれまで通り淡々と、社外取締役の正しい職責を最後の日まで全うされることをお勧めします。