オリックス シニア・チェアマンの宮内さんが3分間レッスンの読者のみなさまの質問にお答えします。(2021年5月10日レター)
【読者】地方で小さなホテルを営んでいます。コロナ禍で宿泊は減りましたが、地元のお客様を対象にテイクアウトのランチ弁当や夕食用総菜、オンライン音楽会など新しい需要を掘り起こしながら、細々とではありますが、何とか事業を継続できている状況です。
従業員たちもそれぞれに知恵を出して頑張ってくれてはいますが、元々人手が不足していたこともあり、何とか事業を継続するためには、時間外労働の上限規制に抵触してもやむを得ないというのが本音です。私は事業継続のために何としても頑張りたい。従業員たちも労働時間が増えても残業代が増えるならその方がよいと考えています。お客さんの需要をとらえてやっていけそうな気がしているのですが、もっかのところ悩んでいるのは、労働時間の問題です。2020年の改正で時間外労働の上限が月45時間と定められ、罰則規定までできましたが、これを真面目に守っていては今の難局を乗り越えることはむずかしいというのが現状です。
時世が変わったのかもしれませんが、われわれにとっては死活問題です。労働時間の法規制を度外視してもやってゆかなければならないという矛盾とせめぎ合いの中にいます。宮内さんはどうお考えでしょうか?
ジョブの切り分け&合理化をして業績改善を目指しましょう
【宮内】まず、企業経営の大原則として、法律は守らなければなりません。死活問題だからと法律を無視して従業員に長時間労働をさせ、一時的に事業が継続できたとしても、労働基準法違反の事件を起こしてしまえば、それこそ会社へのダメージは計り知れません。皆の努力も水の泡となり、本末転倒です。
この大原則を確認した上で、少し視点をずらして考えてみましょう。従業員に残業代を支給されているようですが、残業代は割増賃金ですから、その分人件費が高くかかっていることになります。ホテル運営に必要な業務分析をし、合理化を考えられてはいかがでしょうか。
ホテルの業務を「知的集約型の仕事」と「労働集約型の仕事」に切り分けていただきたいのです。知的集約型の仕事とは、既に取り組んでおられるようなテイクアウトのお弁当販売やオンライン音楽会の企画・運営のほか、これまでのお客様以外の新しい需要を喚起する戦略を立てて実行するといった仕事です。社員には、知的で専門的な仕事に集中してもらうのです。
一方、労働集約型の仕事として、給仕、厨房の食器洗い、洗濯、掃除など、手足を動かすようなものは、外部からアルバイトを雇ったり、機械化してロボットに任せる、という具合です。
法律はきちんと守った上で、ジョブ内容にメリハリをつけて、人材の適材適所を徹底して合理化しますと、経営のムダを失くして業績を上げることが可能になるのではないでしょうか。そのためにも、従業員と現状と目標、そしてビジョンまでをしっかり共有して、同じ方向に向かえるかどうかが大切だと思います。