オリックス シニア・チェアマンの宮内さんが3分間レッスンの読者のみなさまの質問にお答えします。(2021年3月29日レター)

【読者】息子を後継者にするべきか否か、悩んでいます。

医療機器の製造販売事業をたちあげてから今年で三十余年がたちました。事業内容は、デジタルX線CTなどの開発・製造・販売と、各種医療用カメラを使った遠隔医療サポート業務などを展開しています。医師の悩みをとことん聞き、われわれがもっている技術を駆使して、医療現場で求められている機器を開発し、大企業よりも安くリーズナブルな価格で販売することをモットーにしてここまで成長してきました。全国の病院に営業担当を派遣して販路を築き、全国20カ所に販売支社を置いており、約200人の従業員がおります。

これまでは私が体を張って夢中で機器の開発に取り組んできましたが、すでに還暦をすぎてしまい、体力も気力も昔のように無理がきかなくなってきました。全国の医師から寄せられているさまざまな相談に対応し続けるために、若い技術者と営業担当を育ててきました。そろそろその中から後継者を決めて、その者に舵取りを任せ、会社の次の段階へすすむべきときが近づいています。

愚息を大学卒業後に入社させてから18年がたち、ことし41歳になります。いま、愚息には技術開発担当責任者をやらせております。技術者として芽がないわけではないのですが、医師たちとの間に信頼関係を築いたり、営業担当と意思疎通するところが私としてはもの足りなく、若い社員からの人望もいまいちのようで、こののち愚息を後継者に据えて会社がたちゆくものかどうか考えあぐねておりまして、不安がつきません。

社内の陣容は、創業からのメンバーである総務・経理・人事担当の専務取締役(女性50代)、営業担当の常務取締役(40代)、愚息に技術開発担当の常務取締役をそれぞれ勤めさせております。若い者たちに任せることに不安がつきないため、私自身は体力や気力が続く限り、できるだけ長く社長を続けたいと考えています。私が必死に働いてようやくつくりあげた会社であり、社長を退くふんぎりをなかなかつけられません。今後どのように会社を発展させるのがよいか、そこのところをどう考えるべきか、ご教示たまわりましたら幸いです。

ここから10年間、外部から社長を迎え、ご子息を鍛えてもらいましょう

【宮内】ビジネスを家業とみるか事業ととらえるか、決断しなければなりません。家業は血族で守るのが原則ですが、それには確固たるビジネス基盤がなければなりません。例えば銀座通りの老舗です。余程のことがなければ倒れません。事業は常に不安定なビジネス基盤を、自らの能力で新しい価値創造に挑戦し勝ち抜き、生き続けることが求められます。この会社は今後家業で存続できるのか、あるいは事業としてinnovativeに生きるのかの分岐点にあるのではないかと推察します。

創業者である読者の方が60代と推察しますと、お元気であればまだあと10年以上は会社に関与できると思われます。もし、私だったら、たとえ息子さんの出来がよかったとしても、後継者には社外から人材を求めます。その場合の社外人材の条件は、第一に、医療機械分野に通じた専門家で、この分野の知見や情報を豊富にもっていること。第二に、創業者の想いを理解し、真剣に息子を鍛え育ててくれる熱意があること。第三に、自分と息子をつなぐという役割を理解してくれること。もし、育ててもなお息子が後継者に値しないのであれば、それを正直に率直に創業者に伝えてくれること、です。

社外人材は、たとえば、同業者やライバル企業のなかでバリバリ働いてきたものの社長になるチャンスがなかった人などから探すのがよいと思います。こういう人がきっといるはずです。

なぜ、このようにワンステップおくのかといえば、創業者と息子さんとの間の力の差が大きすぎるからです。どれほど優秀であったとしても、41歳の息子さんに直接託すとなると2代目社長に移った後の落差が激しく、ひずみが大きくなってしまうのではないでしょうか。そのようなリスクを回避するために、ワンステップおいて、息子さんが10年ほどその人の下で経営経験を積んだうえで判断し、よければ引き継ぐ。そうすることで成功率が高くなるのではないでしょうか。

ワンステップおくのがベストではありますが、スカウトしてきた人が本当に任せられる人材か否かについても、しっかりと見定める必要があります。万が一ダメだった場合には、もう1回別の人を探すことを考えるということも起こり得ます。創業者が60代ですから、まだこのようなステップを考える余裕はあるでしょう。

ご質問を拝読する限り、少なくとも今の時点で社内の誰か一人に継がせるということはまだ早いように思います。総務経理人事担当の方には、ずっとこの後も専務としてきっちりと金庫番の役割を果たしてもらうのがよいでしょう。この会社は今後も技術開発力で伸びていくわけです。安くて、便利で、皆さんに喜ばれるものを開発するということは、相当技術に通じていなければできないこと。また、おそらく今後は海外市場がより重要となるのではないでしょうか。となると、会社のリーダーは、営業か技術畑の人に担ってもらうのが自然でしょう。

もしかすると、ワンステップおいて育ててもらってもなお、息子さんは適任でないという判断になることもあるでしょう。会社を存続させ、成長させていくためのトップ人事ですから、息子さんに継がせることにこだわりすぎることはありません。その場合は、息子さんには創業家としての株主の立ち位置からも会長や取締役などの役割を担ってもらえば、創業家の血脈も保てます。

世の中で子どもが家業を継いでうまくいくのは、地盤・看板・鞄を引き継ぐ政治家くらいが代表例です。実業界でも、創業者よりも二代目が頑張って会社がさらに伸びたという例はありますが、それは例外かもしれません。この方の事業は今後成長していく大きなポテンシャルを秘めていると思います。何が何でも息子さんに譲るというこだわりは捨てられた方がよいのではないでしょうか。失敗した場合、父子そして事業いずれもが不幸になってしまいます。きつい事を記し申し訳ありません。

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