オリックス シニア・チェアマンの宮内さんが3分間レッスンの読者のみなさまの質問にお答えします。(2021年11月8日レター)

【読者】サービス業で品質管理のマネジャーを担当しています。わが社では、“お客様は神様”という暗黙の了解があります。営業担当がとってきた案件は、納期は変わらずに、お客様の意向のままに業務負担が増えてしまう傾向があります。「これは大きな案件だから」「わが社としてずっとおつきあいしたいお客様だから」といった営業ファーストの考え方が根底にあるため、気づくと仕事量が増大してしまい、製作担当者の労働時間が増えてしまいます。

これでは、会社全体の労働生産性が下がる一方で、売上が増えても、その分コストがさらに増えていくという危惧があります。品質管理を担保しなければならない立場として、営業部にこのままでは会社全体のためによくないことを伝え、申し入れをしたのですが、なかなか変わりません。製作担当者の離職も増えていて心配です。労多くして利が少なくなる状況が続きそうです。

こんなときは、どう改革すればよいでしょうか。われわれはマネジャー目線でしかものごとを考えられないのですが、経営者目線としては、売上げ、コスト、労働時間、品質についてどのようにバランスをとるのが正しいのでしょうか。名経営者と言われる宮内さんのお考えを教えていただければと存じます。

真に強い営業をつくり、良いお客様を獲得することが王道だと思います

【宮内】ご質問者のおっしゃる通り、売り手から見れば自社の商品やサービスを利用し、お金を払ってくださるお客様は神様かもしれません。しかし、お客様は一般的に、高品質のものが早く安く提供されることを望みます。お客様の求めることを全て叶えようとすると、こちらが潰れてしまう心配があります。そのような神様は、果たして本物の神様といえるのでしょうか。

営業の役割について考えてみましょう。当社商品・サービスを決められた条件で販売してくるのが営業です。お客様の希望をその通りに聞いてくるのは御用聞きであって、営業とは言えませんし、会社はもたなくなってしまいます。

営業が強い会社というのは、一定の条件で売るという決まりをきっちり守って売り上げをあげる会社です。品質を保つための価格やコスト、納期などを社内ルールに則って交渉し、相手を説得し納得してもらって注文をとってくることが鉄則です。

お客様の言うことを全部聞いて持ち帰るだけの営業は、弱い営業と言わざるを得ません。営業が弱ければ、製作部門にしわ寄せが及んでしまいます。そう考えますと、ご質問者の会社では、本当の営業を育てる必要があるとお見受けします。

といっても、ルール通りに儲かる仕事を持ってきたのに、製品を作る能力がない、あるいは品質が悪くてお客様が望むレベルに届かないということであれば、これは逆の問題ととらえなければなりません。この場合は、製作部門を鍛え、生産体制を整えることを考えるべきです。

経営者としては、全体像を見て、品質、コスト、労働時間に見合った売上げと利益を得る必要があります。当社はそのために、営業力を強化しなければなりません。「既定の売値以下は会社に持って帰らないように」というルールをつくり、そのためにはどのような営業をすればよいかという仕組みをつくることが大切です。

ご存じない方も多いかもしれませんが、「お客様は神様です」と言ったのは歌手の三波春夫さんでした。その心は、「聴衆というお客様の前では、神前で祈るような澄みわたった心で歌わなければ一流の芸人にはなれない」という気持ちの表れだったようです。

真に強い営業をつくり、リーズナブルな良いお客様を獲得する。これが王道だと思います。品質管理セクションはそのように位置しています。そして良いサービスを提供し、適切な利益を実現するのが営業の役目です。

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