オリックス シニア・チェアマンの宮内さんが3分間レッスンの読者のみなさまの質問にお答えします。(2021年5月24日レター)

【読者】情報産業の営業部で幹部を務めています。会社から新規事業開発チームのプロジェクトリーダーをやれ、と言われました。当面は兼務のかたちで、来期は専任になる予定です。メンバーは、私ともう1人。リクエストすれば、さらなる増員が可能という状況です。

当社には、今までにこれといった新規事業の成功例がありません。したがって、社内でこうしたらいいよ、と教えてくれる人もいません。会社からはテーマも決めてよい、と言われていますが、さすがにこれではざっくりしすぎており、どこから手をつけてよいのやら見当がつきません。

私なりにぼんやりした案はありますが、思いつきでよいのか、という疑問があります。ただ、勢いで始めないことには、一生始まらないとも感じています。事業の軸を決めるために、まずは社内外でさまざまな人に会い、情報を集めたいと考えています。まだ案すらないような新規事業の開発初期段階では、どういう風に組み立てていけばよいでしょうか、気を付けた方がよいことなどがありましたら、教えていただければと存じます。

思い付きや勢いで成功することは至難の業です

【宮内】新規事業を始めるときは、地に足が付いた状況でなければならず、思いつきで成功することはなかなか難しいかもしれません。

これまで貴社が手掛けられてきたことには何らかの専門性があり、それが世の中から評価されているから事業が成り立ってきたと考えます。そこで、ご質問者がするべきことは、社内の中で、専門性が高い方々からよく話を聞くことです。既存事業で自社が持っているノウハウやマーケットの現状、課題などをくまなく聞き取ることが大事です。新しい何かが生まれるとしたら、内部の知識や経験の先からしかありません。それが、冒頭に申しました“地に足が付いた状況”です。

内部情報を徹頭徹尾集め、面白そうな経験や考え方を持っている人と一緒に考えると、新しい芽が出てくるかもしれません。

「会社からテーマも決めてよいと言われています」とのことですが、そもそも新規事業のテーマとは、誰がどうやって決めるのでしょうか。どんなに優秀な方でも、一人の頭で考えて決めることは、至難の業のように思います。

社内の現場で出てきたアイデアから地道に次のステップを考えてみたところ、自社のノウハウだけでは無理な部分があるということでしたら、専門性を持った外部組織の知見も入れて1つのプランを作り上げていくということもあります。そのプランも、1つだけでは足りません。私の経験から、一発で新規事業が成功するなどということはありません。10のプランがあったとして、その中から煌めきみたいなものが見えてくるプロジェクトが1つあるかどうか。そして、そのプロジェクトが本当に煌めいているかを見極める眼力も必要です。

そのようなプランの卵を社内から集めてみて、次のステップに行けるか検証すると、少しずつアイデアが収束していきます。そのプロセスは、“思いつき”や“思い切って”ではなくて、現場から離れない地道な作業の中から生まれてくるものであるべきです。

もし、資金の余裕がおありなら、M&Aという手もあり得ます。新しく始めたい事業について先行してノウハウをもっている会社がある。この会社に10という値打ちがあるなら、10で買うことは難しいですからプレミアムをつけて15で買ったとして、さらに20の値打ちに育てていく力があるのであれば、M&Aの意味はあると思います。しかしながら、これもなかなか一筋縄ではいきません。

どんな会社であっても、事業は必ず新陳代謝が起こります。企業は常に新しいことに挑戦していかなければなりません。

暗闇の中で奮闘されているご質問者のご苦労をお察しします。新規事業を思い付きや勢いで実現することは、お金を捨てることに等しい。新規事業とはそれほど難しいものです。暗闇の中に光を見つけるには、利益の出ている専門性のある分野、おそらく今手掛けている事業の周辺あるいは延長線上に、必ず次の光の種があるはずです。

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