オリックス シニア・チェアマンの宮内さんが3分間レッスンの読者のみなさまの質問にお答えします。(2021年5月31日レター)

【読者】中堅の商事会社に勤務しています。クセの強いワンマン社長のもとで経営企画室長をしております。社長がある新規事業を始めたいと考えており、そのために必要な企業買収の実務ができる優秀な人材を連れてくるように言われました。

そこで、複数のサーチ会社に依頼して、社長と候補者に面談してもらった結果、9人目にやっと気に入った人材が見つかって採用になったのですが、ワンマン社長にお仕えするのが我慢できなくなったようで、すぐに退社してしまいました。

社員として雇わなくても、コンサルタントや外部組織に依頼してはどうですかと社長に進言したのですが、今後のことを考えて、社員として抱えておきたいと言います。もともと離職率が高く、社長の下ではイエスマンでなければ長続きしません。何よりも“裸の王様”になっている本人に、人材が集まらない原因は社長にあるということに気づいてもらうのが一番近道なのではないかなと迷うようになりました。私の視野が狭くなっているのかもしれませんが、よいお考えがありましたらご教示いただけないでしょうか。

“裸の王様”に仕えるよりも、離職されることを勧めます

【宮内】企業買収をするために専門知識をもった人をわが社に入れなければならないという考え方は、少し違うように思います。ご質問者がおっしゃるように、わが社に入れずとも、優秀な外部アドバイザーを呼んでくればよいのです。

アドバイザーの役割は、良い買収先候補を挙げてくれることと、話が進んだ場合の企業分析をすること。この2つが必須になります。アドバイザーから候補先の事業内容や強み、財務内容を聞いて理解し、「これは面白いからやろう!」と決断するのが社長の仕事です。投資銀行などM&A専門のネットワークと情報を持っている非常に優秀な外部企業が存在するわけですから、社員として雇うよりもプロに依頼した方が効率的で良い結果が得られるはずです。

もし、ご質問者の会社が上場されている場合は、しっかりした社外取締役を任命してガバナンス体制を整えるのが理想ですが、ワンマン社長のもとでは、そのような体制を整えるのはなかなか難しいように思います。それでも、業績が悪化すれば、マーケットから「この社長でいいのか?」というプレッシャーを受けますから、上場企業の方が厳しい目が注がれることになります。

ご質問者のように自分を殺して“裸の王様”に仕え続けるぐらいであれば、私は離職されることを強く勧めます。できることなら、密かに転職先を見つけておいて、クビになっても構わないという状況を自ら作り上げてから“裸の王様”に対して「社長、こんな経営をしていてはいけません」と最後の進言をしてみる。それで聞き入れてもらえないなら、その時は見切りをつけて去る。これが取り得る現実的なやり方ではないでしょうか。

その意味で、辞めるという選択肢を腹の底に持ちながら仕事をすることは、ご自身のためにも大事だと思います。

すでに若い層にはジョブ型志向が広まっており、その結果として優秀な人材がどんどん辞めていくような会社は、組織として成長できなくなっている証拠です。裏を返せば、辞めてももっといいところに行けるという自信がありさえすれば、どこにいても良い仕事ができるということです。

企業としては、優秀な人材が辞めていかないような処遇と風土を作らなければなりません。会社が社員に重要な仕事を与え、ここにいれば良い仕事にチャレンジできて自分が成長できるという実感を得られるような環境を作れば、おのずと人は定着します。

ご質問者の貴重な人生を“裸の王様”に捧げるのは非常に残念なことです。視野を広げ選択肢を増やして、今後のことを考えてみませんか。

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