オリックス シニア・チェアマンの宮内さんが3分間レッスンの読者のみなさまの質問にお答えします。(2021年8月2日レター)
【読者】製造業の生産工場で製造管理課長をしています。60余人の部下を預かって5年になりますが、製造管理課は指示待ち部下ばかりで、自分から生産現場の改善点について考えたり、疑問を持ったり、提案したりということがありません。
私はこれまで、本を読み、いろいろな分野の人の話を聞いて、どうしたら自分の工場で工程の改善ができるか、より効率を上げて、より質の高い製品を、より安全につくることができるのか、知恵を絞って上に提案してきました。工場長は私の提案に少しずつ耳を傾けてくれるようになり、課長のポストをもらえるようになったのだと思います。
ところが、今の20代、30代の若い社員には、現状をよくしたいという欲がありません。もっとよい仕事をしたいという意欲が見えません。以前には、帰りがけに一杯誘って、後輩たちに私の思いを伝え話をしていたのですが、最近ではコロナを理由にそういった誘いにものってくれなくなりました。残念です。
今の若い層は、何ごとも問題なく家族と暮らしていければそれでいいという無欲でドライな考え方が多い。私のようにもっとよい仕事がしたいという管理職は、彼らにとってただのうるさいオジさんにすぎず、何を言っても空回りになってしまい、空しくなります。これでは、日本のモノづくりの将来もどうなってしまうのか、心配になります。
もし、宮内さんがこんな状況にいたら、どうされますか?
ものづくりの新しい手法に挑戦されてはいかがでしょう
【宮内】ご質問者が製造管理課長として一生懸命勉強し、工場をよくしようとされていることは、たいへん尊いことだと思います。確かに、ものづくりの現場でカイゼンにカイゼンを重ねた結果として、日本が世界のチャンピオンになった時代がありました。しかしながら、カイゼン運動、デミング賞への挑戦など、全社を巻き込んだ高揚した工場現場は、返ってこないのかもしれません。その後の時代の流れで、ものづくりの現場は低コストの新興国に移ってしまっているところも多くあります。
残念ながら、コスト競争力の観点から、日本の製造業が生き残る難易度は日に日に増しているように思います。自動車のような高付加価値産業や、半導体製造装置のようなハイエンドの産業ですら、厳しい競争環境に置かれているのです。
もちろん、日々業務の効率化や改善点を考えることは大切なことです。単に毎日同じ仕事を繰り返すだけでは、生産性は高まりません。しかし、時代は変化してしまっており、一部のハイテク分野を除いては、昔と同じように製造現場での地道なカイゼン活動に若い人々を巻き込むのは、もう難しくなっているような気がします。若い人たちの今の生活観を変えてもらうのは大仕事です。それを受け入れて、次に何ができるかではないでしょうか。
そうであれば、私がおすすめしたいのは、時代の変化に合わせて、逆に徹底したマニュアル化を進めたり、設備投資をして機械を高度化し、AIやロボットを導入して効率化をするといったことに製造管理課長として積極的に関わっていくということです。そうすれば、工場全体の生産性を向上させることができますし、効果が上がるのではないでしょうか。
帰りがけに若い人々を一杯誘っても空回りしてしまうとのこと、淋しいことかもしれませんが、時代の変化に合わせてご自身も変わり、持ち前の研究熱心さでものづくりの新しい手法に焦点を当てて、挑戦されてはいかがでしょうか。