オリックス シニア・チェアマンの宮内さんが3分間レッスンの読者のみなさまの質問にお答えします。(2021年10月4日レター)

【読者】精密機器製造会社のHR(ヒューマン・リレーション)部で人材育成や組織開発を担当しています。わが部で実現したい人材育成戦略について、経営層を前に何度か説明する機会がありました。その時、説得力をもって経営層に説明するためには、視座・視点を現場マネージャーレベルから一段階も二段階もレベルアップさせなければならないと思いました。経営層の視座・視点をもって分析し資料を作成して初めて、提案を聞き入れてもらえることを痛感しました。

自分の業務を経営の視点から捉え直すには、普段からどのようにすればよいでしょうか。そして、これからの経営人材には何が求められているのでしょうか。名経営者として知られる宮内さんのアドバイスをいただけたら嬉しいです。

これから世の中がどちらの方向に向かうのか、「マクロ観」を持って考えてみてください

【宮内】おおげさに聞こえるかもしれませんが、HR(ヒューマン・リレーション)のセクションは“会社百年の計”を考える部門です。もちろん、会社にとって今の業務に必要な人材を整えることも大事ですし、今ある人材の力を最大限に引き上げることも重要な役割です。

しかしながら、ひょっとすると、HR部は、経営トップよりもさらに“長期視点”に立って、会社の未来を見通すということが必要かもしれません。経営トップが最低でも10年先を見据えて経営のビジョンを考えるとすれば、HR部は20年、30年先を見据えて、会社の未来のためにどのような人材を採用・育成・評価していく必要があるのかを、超長期目線で考えることが最大のミッションです。

この場合の“長期視点”とは、これから世の中がどちらの方向に向かって進んでいくのかを捉える目、と言ってもいいと思います。私は、常々、「マクロ観を持ちましょう」と言っています。自社のことだけではなく、世の中の流れをしっかりとらえることです。

たとえば、今の状況であれば、ドローンのように無人飛行する乗り物が増えたら、どんな世の中になるのだろうか?AIやロボットが働いてくれるようになったら、人間の働き方はどう変わるのだろうか?世の中がそのように変化した時、わが社は社会のために何をするべきなのか?というように、時代の変化の波頭を捉える「マクロ観」を育てていくことが大事です。

昔の人材戦略は、素直な性格の人や潜在的に伸びそうな人、自社に合いそうな人を採用し、一人前に育て、定年まで勤め上げてもらうというものが一般的でした。しかし、それは20年後、30年後も続くわけではありませんし、今は一人前に育つとライバル会社に行ってしまうかもしれません。

今後、ジョブ型の働き方に世の中の流れが向かうことが予測される中で、20年先30年先に貢献してくれる人材を採用するにはどうすればよいか、そして、入社した優秀な人材に気持ちよく長く働いてもらうにはどうしたらよいか、そのためには人事評価をどうすればよいか。このような人材育成構想がなければ、会社はのびません。この最も重要な役割を担っているのがHR担当です。

長期的な視点に立てるなら、経営トップと同じ波長で会社の未来を語れるようになります。これからの経営人材に求められていることも、「マクロ観を持つ」ということがすべての基礎になると思います。

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