オリックス シニア・チェアマンの宮内さんが3分間レッスンの読者のみなさまの質問にお答えします。(2021年5月17日レター)

【読者】製造業で販売課長を勤めています。このところ経済界の論調として、「何事についても利他の精神が大事」、「私利私欲を捨てて仕事に当たる方がよい」ということをよく聞きます。日本資本主義の父と言われる渋沢栄一も、「論語と算盤」でこのような精神を説いていますし、米国でもEthical StandardsやCompliance Standardsが行動規範になるべきであるとよく耳にします。

しかしながら、私には、利益を上げることが求められている資本主義と、論語や利他の精神とが結び付けられないのです。会社の成長か利他かどちらをとるかと問われれば、会社の成長こそを選ぶべきなのではないでしょうか。部下である20代〜30代の若い世代に向けて、どのように伝えてよいのか、自分でも答えが見つかっていません。宮内さんならきっと教えていただけると思い、お尋ねします。

“利他”を重んじれば、会社は永続的に成長します

【宮内】まずは、共通認識を持つために再確認しておきたいと思います。世の中のためと思って経済活動をして、それが世の中に受け入れられれば利益につながる、というのが資本主義の原理原則です。

世の中の人が「これはいいね」と言ってくだされば、当然その対価としての利益が出ます。そして、世の中のためになるということは、結果として自分の事業のためにもなるということです。渋沢栄一も、世の中のためになる事業をとことん作ろうとしたのではないでしょうか。

もし、自分のためだけに事業をしようとすれば、それこそが私利私欲であり、これでは経済は回りません。社会をだましてでも儲けてやろうなどという事業は、いつか必ず社会から報復を受けることになります。

“会社の成長”と“利他”とどちらが大事かというお尋ねですが、利他の精神の「他」を「社会」と置き換えて考えてみてください。社会に利する事業を行えば、それが結局は自社に返ってくる、社会が評価してくれることを多く行えば行うほど、会社は成長するという仕組みです。それが資本主義のシステムです。アメリカのEthical StandardsやCompliance Standardsも、渋沢栄一も、皆言っていることは同じです。

ご質問者は、“会社の成長”か“利他の精神”か、あたかも右か左かと考えておられるようですが、社会が多く評価してくれることをすれば会社が成長するということですから、両者は完全に一致しているのではないでしょうか。「論語と算盤」も同様で、論語の精神で算盤を弾け、つまり社会のためになり、かつ利益が出ることをやれと説いているわけです。

若い世代と協力して、長期的に伸びる仕事をするような会社組織となるように奮起してください。目先の利益だけ上げればよいという考え方では、社会からの支持は得られません。

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