オリックス シニア・チェアマンの宮内さんが3分間レッスンの読者のみなさまの質問にお答えします。(2021年9月27日レター)
【読者】わが社は明治時代に手作り家具の店として創業してから、私が4代目になります。職人の手仕事を機械化し、家具の工業化生産が成功して、経営が拡大しました。好景気には高級家具路線で、つくれば売れるという時代もありました。このときに、総合サプライヤーとして商社戦略を掲げ、会社が成長しました。
ところが、それ以降は、利益第一主義がたたってしまい、売り上げダウンに歯止めがかからなくなり、最盛期のころと比べて売り上げがほぼ二分の一になってしまいました。このどん底の低迷期に、私がそれまでの勤め先を辞めて経営を引き継ぐことになったのです。この数年間、どう立て直したらよいのか、試行錯誤を続けています。
わが社は、商社として生き残るのか、メーカーとして生き残るのか。昔からの社員たちを交えて話し合いました。何日も話し合った結果、創業のころの精神に戻って、家具のメーカーとして生まれ変わりたいという結論が出ました。
大勢のお客様にも意見を聞きました。お客様の声は、カタログに欲しいものがないという反応が多く、これにはショックを受けました。職人たちは優れた技術をもっているのにもかかわらず、お客様が本当に欲しいものにその技術が生かされていないという現実がわかりました。
何をもって会社を変えればよいのか。お客様の望むものをつくればよいのか。商品のデザインを斬新なものに変えればよいのか。販路を国外に求めればよいのか。考えられることを試行錯誤してやってきましたが、なかなか活路が見いだせず、このままではじり貧になってしまいます。宮内さんなら、どのようなお考えをもとに経営の改革を進めますか?
まずは徹底したマーケティングが必要です
【宮内】これは、たいへん難しいご質問をいただいたと思います。私の知る限りでは、日本では本来の高級家具は小さな専門メーカーでしか製造しておらず、ほとんどが海外からの輸入品なのではないでしょうか。そういう意味では、日本のメーカーが高級家具を作るというのは面白い路線だと感じました。
しかしながら、「カタログに欲しいものがない」というのは大きな問題です。まずは現状を受け止めて、お客様が欲しがっているものは何なのかについて、徹底したマーケティングが必要なのではないでしょうか。お客様ニーズを綿密に調査した上で、同業他社と比較し、狙うべき市場や職人たちの技術の生かし方など、経営トップが今置かれている状況をよく分析し、これから会社が向かう道を決断するべきなのだと思います。
大衆向けの家具と高級家具では、当然のことながら、ターゲット顧客や商品の価格帯、販売戦略も大きく異なります。おそらく現在の市場は、価格破壊的な大衆市場が出現し、それが高級品市場の価格を圧迫しているのではないでしょうか。品質とともにコスト管理が最も求められる市場になったのではないかと予測します。
経営戦略を練るにあたっては財務分析も必要になります。家具業界をよく理解している戦略コンサルタントにも相談されてはいかがでしょうか。
昔からの社員と話し合うことも大事ではありますが、会社の方向性を決めるという面では少し違うように思います。トップが会社の持つ優位性(例えば技術力)はどの程度か、欠点は何か(例えばマーケティング力、価格)などを分析し方向性を見極める、これが仕事なのです。私の経験では、迷いがあれば戦略コンサルタントを相談相手にして自分の考えを確かめることもやってきました。
最終的には、会社の将来は、経営トップ自らが深く勉強した上で決断しなくてはなりません。