本連載では、“伝説のトップコンサルタント”堀紘一氏に、メルマガ編集チームがまとめたリーダーたちの悩みをぶつけ、ズバッと斬っていただきます。(2023年11月6日レター)

──この10月、インドネシアに東南アジアの高速鉄道第一号が開通したというニュースがありました。施工は中国企業で、中国は「一帯一路」構想の下、鉄道建設事業を拡げているようです。中国経済が低迷する中、これらのプロジェクトはどうなるのでしょうか。堀さんの視点を教えてください。

【堀】じつは、インドネシアの首都ジャカルタとバンドンの間を走る全長142キロの高速鉄道をめぐっては、日本と中国の間で受注競争がありました。中国がインドネシアに全額融資し政府の債務保証も求めないという計画を提示して、2015年に中国が受注を獲得したといういきさつがあります。中国は巨大経済圏構想「一帯一路」を推し進めるために、採算を度外視してアジアの国々で鉄道建設に着手したのです。

その後、インドネシアと中国が合弁会社を設立して工事が始まりましたが、総工費が当初予定の約60億ドルから約72億ドルに膨らみ、超過費用を誰が負担するのかについて両国政府間で協議が続き、インドネシアが公費を投入することになりました。開業時期も当初は2019年を予定していましたが、工期が4年ほど遅れてこの10月に開業となったわけです。

今また、この鉄道の延長プロジェクトをどこの国が担うかが取りざたされています。日本がどう動くかはわかりませんが、私だったら断固として断ります。もし、当初から全ての建設を請け負うならば、一部補助金を負担しても日本とインドネシアの友好の印として検討するかもしれませんが、中国が建設した鉄道の延長事業を、線路の幅、車両、システムなどの技術が違うのに日本が引き受けるべきではないと私は考えます。

日本の鉄道建設の技術は非常に優れていて、安全性と運行システムも信頼されています。たとえば、レールのゲージは、在来線では狭軌、新幹線は広軌と言われますね。しかし、山形新幹線と秋田新幹線は、狭軌だった在来線の線路を新幹線と同じ広軌に改造し、新幹線と直通で運行できる技術が使われています。こんな器用な工夫ができるのは、世界でも日本だけではないでしょうか。

皆さんの記憶に残っているかもしれませんが、2011年に中国で高速鉄道事故が起きた折、中国政府が直後に事故車両を地中に埋めてしまったのです。これは中国政府の隠蔽体質を世界中にさらす出来事でした。それに比べて日本では、事故が起きてしまったら、補償をした上で事故原因を徹底的に究明し、その結果を公表して社会のために役立てようとします。

中国人は、兄弟や親戚といった血縁の間では、命に代えても忠誠や信頼を守ると言われています。中国人のこのような正義とわれわれ日本人の正義とは性質が異なるので、一概に比較することはできませんが、海外から見てどちらの方が信頼してもらえるか、どちらがより心を合わせられるかと言えば、私は日本であるという気がします。

海外からの旅行客が日本の新幹線に乗るとびっくりするとよく耳にします。時速300キロ出していてもほとんど揺れず、騒音も少なく、車内がきれいだと言うのです。車内清掃についても、JR東京駅の新幹線ホームで清掃員の手際の良さを見れば、これは神業としか思えません。わずか7分の間に、全車両内とトイレの清掃、ゴミ出し、座席の向きを変えて忘れ物の確認もする。過密ダイヤの中でこの作業が遅れると、運行スケジュールに影響が出てしまいますから。

じつは、この清掃プロジェクトは米ハーバード大学ビジネススクールのMBAで、1年生のケーススタディ必修科目として取り上げられています。リーダーシップのコースと技術マネジメントのコースで研究対象とされているようです。この神業プロジェクトに、日本人の器用さや遂行能力、責任感が良く出ていると感じます。

世界各地で鉄道建設をすすめてきた中国ですが、この10月に開かれた「一帯一路」フォーラムに参加した首脳は東南アジアやアフリカの国々が中心で、その数は過去最低だったとのこと。欧州からの参加はロシアのプーチン大統領のみで、他の欧州諸国は参加しませんでした。中国経済悪化への懸念がここにも影を落としていると見るべきでしょう。

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