本連載では、“伝説のトップコンサルタント”堀紘一氏に、メルマガ編集チームがまとめたリーダーたちの悩みをぶつけ、ズバッと斬っていただきます。(2024年4月1日レター)

──株式市場が活況を見せている中、マネジメント・バイアウト(MBO)による非上場化が急増しているとのことです。せっかく上場したのに、なぜ上場企業というステータスを自らやめる企業が増えているのでしょうか。堀さんの見方を教えてください。

【堀】私が創業したドリームインキュベータは、2000年創業。2002年に東証マザーズ(当時)に上場し、2005年には東証第一部(同)に移行させてもらいました。上場すれば証券会社が株式を売ってくれますので、資金を集められます。また、上場会社ということで、優秀な社員を採りやすくなります。この2点が上場する一番大きな利点といえるでしょう。

しかし、私の経験から正直に言えば、できることなら非上場で経営するのが良いですね。というのも、上場企業は、法律に基づき財務内容や事業、営業の概要を記した有価証券報告書などを提出しなければなりません。そればかりか、新株式の発行、新規事業の開始、工場の火災といった事故、業績予想の修正などの情報もタイムリーに開示しなければならないというルールがあります。これにかかる時間、労力、コストを想像してみてください。

もし、手元に資金が潤沢にあり、優秀な人材を集められるならば、上場する必要はありません。人、モノ、資金の3本柱がそろっていれば、おおむね良い経営ができます。技術も必要ですが、技術は優秀な人の脳みその中にありますから、優秀な社員を雇って高い給料を払えれば、技術も獲得できます。

このように、非上場で経営できれば一番良いのですが、それがなかなか難しい場合もあります。資金が足りなくて工場などの施設が手当てできないとか、もっと優秀な人材がいなければこの研究のブレークスルーができないということが起きるので、歯を食いしばって上場を目指すわけです。

マネジメント・バイアウト(Management Buyout、以下MBO)とは、企業の経営陣が自社の株式を、プレミアム(上乗せ幅)を払って買い取ることによって経営権を取得し、非上場化するということです。たしかに、最近は増える傾向にあります。たとえば、2023年11月に発表した大正製薬ホールディングスのMBO価格は、市場価格に5割以上のプレミアムをつけたと言われています。

非上場化すれば、上場に伴う各種の煩雑な業務が不要になり、総じて経営の自由度が高まります。経営者にとっては外部の目を気にせず大胆な手を打つこともできるわけで、事業を改革する好機となります。昨年、東芝が非上場になりましたが、もしかすると何年か後に生まれ変わり、時価総額が10倍、20倍になって再生するかもしれません。

こう見てくると、MBOもIPO(株式公開)も、いずれも会社を“お色直し”するための手段に過ぎないことが分かります。会社の成長や停滞といったその時々の状況に応じて、拡大するとか改革して再活性化するといった施策を打ちやすくするための手段です。ですから一度非上場化しても、新しい会社になって株式市場に再登場することもあり得ます。MBOとは、会社の価値を高めることを目的に、きれいにお化粧直しして再デビューさせる戦略と考えればよいと思います。

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