本連載では、“伝説のトップコンサルタント”堀紘一氏に、メルマガ編集チームがまとめたリーダーたちの悩みをぶつけ、ズバッと斬っていただきます。(2024年2月5日レター)
──堀さんは以前に、社員は社長に本当のことを言わないものなので、本当のことを探り出すために社長時代にとても苦労したとおっしゃっていました。堀さんは、どのようにして社員の本音を引き出されたのでしょうか。
【堀】いわゆる社員の「本音」には、大きく分けて二つの由来があります。一つは、社員のエゴやわがままに起因するもの。もう一つは、社員が抱いている本音を生かして会社を変えた方が、社員のためにも会社のためにも良いというものです。といっても、社員も、自身の本音がエゴによるものか、会社のために良いことなのかについて、正しく気づいているとは限りません。後者の本音が重要ですので、聞き出したいのですが、経営陣にはそれをなかなか言わないわけです。
そもそも、日本人は本音と建前を使い分けています。特に上役に対しては、建前に終始する人が多い。私はかつてダイエーのコンサルティングを担当し、創業者の中内㓛さんとひんぱんに接触していましたが、中内さんほどの経営者でも社員の本音をきちんと把握されていないのだな、と感じることがよくありました。たとえば中内さんは経費節約のために飛行機に乗る時はいつもエコノミー席でしたが、部下の役員たちはビジネスクラスに乗っていました。これでは経費節約の効果はありません。しかし、そのことを中内さん自身は知りませんでした。なぜなら、それを知る立場にいる社員たちが中内さんに本当のことを報告しないからです。
社員は本音を言わないし、ましてやマイナス情報をなかなかあげてくれません。それは、自分の評価を下げたくないという心理が働くからです。社員は、自分の失敗について報告しない。また、周囲の人も、気づいていても上層部に伝えると告げ口になってしまうので、なかなか言わない。すると、何が起きているのか、把握できなくなってしまうのです。
ダイエーの中内さんと社員たちとのすれ違いのようなことは、他社でもよくある話です。人は、ものを見る視座が変わると、感じることも変わる。神様ではないから、上からも、下からも、横からも見る、ということはできないんですね。
どこの会社にも、長く働いている女性社員、「お局さん」がいます。お局さんは、社内事情に非常に詳しい。私も、お局さんに目をつけて、社内の実情を聞き出そうと晩御飯に誘い、お酒も飲んで、「ここでは、言いたいことを言ってほしい」と促してみたことがありますが、彼女たちはなかなか口を割らない。告げ口になることを恐れているのか、本音は言わずに、建前に終始しちゃうんだな。
私がコンサルタント時代に最も得意にしていたのは、年上の社長や副社長と1対1で密室にこもり、時間をかけて本音を引き出すことでした。ところが、若い社員たちの本音を引き出すのは、むずかしかった。立場が邪魔をするので、コミュニケーションをとることに苦労したものです。若手役員に本音を探らせたりもしましたが、やはりムダでした。社員の本音を引き出すには悩みが尽きなかったということです。