本連載では、“伝説のトップコンサルタント”堀紘一氏に、メルマガ編集チームがまとめたリーダーたちの悩みをぶつけ、ズバッと斬っていただきます。(2024年6月3日レター)
――日本企業において海外の株主がますます増加する中、海外の投資家向け広報が大事な役割を担うことと思います。日本の株主と比較して、海外の投資家向けにはどんな情報とコミュニケーションが重要になるでしょうか。海外でのビジネス経験が豊富な堀さんの考えをご教示ください。
【堀】日本取引所グループ(JPX)の発表によりますと、東証プライムにおける海外投資家の取引割合は70%近くあります。そこで、まず大事なことは、日本の株式の70%近くを外国人が売り買いしているわけですから、最大の投資家に対するIR活動として、海外広報をすることがいかに重要であるかという意識を強くもつことではないでしょうか。その意識がないと、戦わずして負けてしまいます。
そのうえで、当たり前のことですが、国内の投資家に示すのと同じレベルの資料を作成できなければなりません。売上や利益などの数字は当然のことですが、海外の投資家が知りたいことをわかりやすく伝えるロジカルで視覚的な資料が最低限必要です。
海外の投資家は、フランス人も、ドイツ人も、中国人も、皆、英語で読みますから、それらの資料を英語で効果的に伝える技量も磨かなければなりません。自社の技術の強みや、未来社会でどのように自社の技術が必要とされているのか、といった試算や見込みについても効果的に伝えて、投資する意義を理解してもらうことです。わかりやすくて気軽に見れる動画を作成することも、1つの手段として考えてもいいのではないでしょうか。
一方、日本では、高校でも、大学でも、世界中でマネーがどういう風に動いているかについて教えていません。まずはこのような教育の基本から変えていく必要があると私は考えています。高校や大学の教養課程で、お金がどういう風にして生み出され、ファンドが形成され、投資が行われ、グローバルにお金が動き回っているのか、その仕組みや実態を理解しなければなりません。
日本人の中には、お金は汚いもので、利潤を追求するのははしたないことだと言う人がいます。言うことは自由ですが、現実の世界でお金を集めて回す手法を知らなければ、産業を育成し成長させることはできません。上場企業の中でも、海外投資家に向けたIR活動ができる人材を育てていく必要があります。ですから、マネー教育に対する認識を100%切り替えて、若い頃から投資やファンドの基本的な知識を身につけることは、日本の将来のために不可欠と言えます。
海外の投資家も、日本の投資家も、共通する目的は資金を増やしたいということです。その期待感が高まれは、何があっても日本に投資するでしょう。それらのことを理解した上で、効果的な海外広報に力を入れてほしいと思います。