世界経済の行方に不透明感が漂う中、日本企業は稼ぐ力を回復し、日経平均株価は34年ぶりの最高値を更新しました。堀紘一さんは、その流れを早くから予測し、日本企業、日本経済へのエールを送ってきました。あまたある企業の中から「伸びる会社」をいかに発掘したか、また、見逃してしまいがちな経済ニュースの重要ポイントはどこか。今回は、米半導体大手のエヌビディアなどの超優良銘柄に、早い時期から注目し発信してきた理由を公開します。(2024年6月24日レター)
君は「5年後の世の中」が見えているか?
ボストン コンサルティング グループ(BCG)の創業者は、ブルース・ヘンダーソン(Bruce Henderson)という方です。ヘンダーソンさんは、企業が競争優位性を獲得するために必要な変革を実現させることをコンサルタントの存在意義と考えていた人で、たいへん鋭い知見を持っていました。BCGの名を著名にした経験曲線(エクスペリエンスカーブ)や、どの事業領域に自社の経営資源を配分すればよいかを判断するPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)などは、ヘンダーソンさんが発明した手法です。
コンサルティング会社の中で最も古く1914年に開設されたブーズ・アレン・アンド・ハミルトンや、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどと比べて、BCGは1963年の創業であり、当初は新参者としてのスタートでした。そこから急速に信頼を獲得し、名門と評されるまでにしたのですから、ヘンダーソンさんの功績は大きかったと思います。
私がBCGに入社して間もない頃、ヘンダーソンさんとともに軽井沢の高級ホテルに缶詰めとなって経営トップのセミナーを開催したことがあります。毎朝早く、ヘンダーソンさんから電話でたたき起こされて、散歩に付き添いました。
彼は、ゴルフ場の散歩道に生えている下草を見ながら、「この中で、どれが松の新芽で、どれが雑草だかわかるかね?」と私に聞きます。「わかりません」と答えると、「そんなことがわからないで経営コンサルタントをやっているのか」と怒られました。「経営コンサルタントは、『5年後に世の中がどうなっているか』が見えていなければ務まらないぞ」と言うのです。
ヘンダーソンさんが言いたかったことは、要するに、いま世の中にある新商品や新サービスも、5年前は新芽として誰かが研究所で一生懸命に研究したり、試作品をつくったりしていたものであり、新芽は雑草と違って5年後には立派な木になる。そういう見分けがつかなければならないぞ──ということです。高額を支払ってまで会社の最も大事なことを相談するコンサルタントは、先が見えている人でなければならないと伝えたかったのだと思います。
ヘンダーソンさんのその言葉を、今でもよく思い出します。あの頃以来、私は5年後の世の中がどうなっているか、という問いをいつも頭の中にめぐらせています。
「失われた30年」と呼ばれていた間に、アメリカ陸軍が軍事目的で開発したインターネットが民間でも使えるようになり、すさまじい勢いで成長しました。やがてGAFAMが出現し、あっという間にそれまで世界を支配していたGMやGE、シティバンクなどの巨大企業を時価総額で追い越してしまいました。
これから5年後はどうなるんでしょうか。半導体業界でいえば、いま半導体の微細化は2ナノまで進んでいます。2ナノは試作段階にあり、実用化されているわけではありませんが、今後1ナノや0.5ナノに進んでいくのかといえば、私は違うと考えています。微細化はこれが限界で、次に向かう先は、積層ではないでしょうか。2段重ね、3段重ねと重ねていけば、情報量を2倍、3倍と増やせます。そうなると、積み上げるときの厚さをどれだけ薄くできるかがテーマとなり、そこからまた尽きることのない競争が始まるでしょう。