本連載では、“伝説のトップコンサルタント”堀紘一氏に、メルマガ編集チームがまとめたリーダーたちの悩みをぶつけ、ズバッと斬っていただきます。(2023年9月4日レター)
――株式時価総額が1兆円を超える日本企業が増えており、1位のトヨタ自動車37.5兆円、2位ソニーグループ16.4兆円、3位キーエンス16兆円を筆頭に、157社に上ったとのことです(5月18日時点)。景気後退、人件費増大、円安による材料費の高騰、貿易赤字など懸念材料が絶えない環境下ですが、今後の世界経済、日本経済に対する堀さんの見立てはいかがですか?
【堀】株式時価総額1兆円企業(以下、時価1兆円企業)は、「大企業の中の大企業」であることの証です。そもそも日本には、高収益企業であるにもかかわらず、株価が一株当たり純資産の何倍であるかを図る指標PBR(Price Book-value Ratio)が1倍以下の企業が数多くあります。つまり、多くの企業の株価が自身の純資産より低い、つまり解散価値よりも低いわけで、市場から評価されていないことになります。その中にあって、時価1兆円企業は勲章といっていいと思います。
一方で、世界でもトップクラスの投資会社バークシャー・ハサウェイのリーダーを長年務めるウォーレン・バフェットさんのような大投資家から見た場合は、時価1兆円といえどもその程度では流動性が小さく、売りたい時に売れないため、投資対象とはなりにくいのです。その意味で、3位までの3社は時価15兆円を超えていますので、バフェットさんの有力な投資対象になり得ると考えます。
まず、トヨタ自動車については、世界トップの自動車メーカーという評価は揺るがないでしょう。電気自動車のテスラ・モーターズが販売台数を伸ばし、すでに時価総額でトヨタ自動車を優に上回ってはいますが、このまま順調に成長するか否かはまだわからないと私は見ています。
というのも、自動車を構成する部品は3万点ほどあり、それらの部品同士がうまく嚙み合い、無駄なくスムーズに機能を果たすためには「すり合わせ技術」が必要です。エンジン車と比べて電気自動車は部品点数が少なく、そこまでの連携は必要ではないと言われていますが、それでも、すり合わせ技術の重要性はなくならないと思います。テスラはトヨタやベンツから多くの人材を引き抜いていますが、果たしてこのような関係性を確かなものにできるのか否か、私はそこのところをもう少し見極めたいと考えています。
第2位のソニーグループは、エレクトロニクスのハード事業に加え、音楽や映画、ゲーム事業といったソフト事業も強い。さらに生損保や銀行といった金融分野でも競争力を増しています。そして、第3位のキーエンスは非常にユニークな企業で、新商品の約70%が世界初、または業界初と言われています。社員がどこまでも創意工夫するという企業風土をもっており、この風土によって会社の付加価値を高めています。ここにバフェットさんが目をつける可能性は大いにあるでしょう。
この3社は大企業の中の大企業であると同時に柔軟性も持っており、環境が変化しても乗り越えていく力をもっています。日本が世界に誇れる企業の代表です。私は、人口減少が続く日本にとって、この3社には国家戦略を立てるヒントがつまっていると考えています。
それにしても気がかりなのは、中国経済の動向です。経営再建中の不動産会社恒大集団が、とうとうアメリカで連邦破産法15条の適用を申請したからです。不動産業界のみならず、中国経済全体への影響は計り知れないものと思います。
中国人には、日本人と同様に農耕民族のDNAが残っていて、土地に対するこだわりが強いのです。土地にこだわりを持つ中国人が、田畑を持つ感覚でマンションを欲しがり、自分が住まなくても新しいマンションを買いたいんでしょうね。当局の規制もあって北京・上海郊外のマンション価格が下落し続けており、習近平政権がこの事態を乗り切れるのかを注視したいところです。
中国の景気後退とそこから派生する金融リスクが世界経済にどんな影響を与えるのか、これから注意深く見ていかなければなりません。