人工知能の登場によって、今ある職業の半分は人工知能に代替されるという。しかし、それはナンセンスだと断言するのは数学者の藤原正彦氏だ。社会変化が大きく先行きが見えない時代に人間としてどう生きるべきか、日本人の品格をどう復活させるかについて話を伺った。(内容・肩書は、2019年7月5日号掲載時のままです) 

品格を失い続ける2つの根本的理由

日本は今も品格を失い続けています。その根本的な原因は世界中を席巻したアメリカ型資本主義、いわゆるグローバリズムの浸透と活字文化の衰退です。この2つが日本人の心を荒廃させてしまったことは間違いありません。これから日本の将来を担う若者の生き方を考えるとき、この弊害をいかに克服していくかが重要といっていいでしょう。

このうち、グローバリズムとは1980年代、米国のレーガン政権が自国の国益だけを考え、半ば力ずくで推し進めた強欲な経済政策でした。ミルトン・フリードマンを筆頭とするシカゴ学派の学説を鵜呑みにしたのです。それは一言でいえば、ヒト、モノ、カネが自由に国境を越える経済です。自由で公平な競争とはいっていますが、一切の規制を取り払って極限の利潤を追い求め、競争に勝った者がすべてを奪い取るシステムなのです。したがってこれは、1割の勝者と9割の敗者を生み出します。中間層を消す経済学です。

数学には「大数の法則」という定理があります。例えば、サイコロを10回振れば、回数が少ないため奇数と偶数の出る割合は7対3などとばらつきが出ることがありますが、1億回も振ればほぼ半々に収束します。しかし、現実世界では勝つ者は勝ち続け、負ける者は負け続けるので、サイコロのように公平な社会に収束せず、ゆくゆくは1%の勝者と99%の敗者となることは必然でしょう。

それなのに、日本の歴代政権はグローバリズムを信奉し、大企業や富裕層に有利な規制緩和や構造改革を強行。90年代半ばから今日にかけて、金融ビッグバンや郵政民営化、商法改正、そして商店街をシャッター街に変えた大規模小売店舗立地法の施行などアメリカから求められるままに受け入れてきました。経済に弱肉強食の論理を持ち込んだことで、日本人の持つ優しさや思いやりといった美風が失われ、物事を金銭で評価する風潮が世の中に蔓延するようになりました。

しかし、ここにきてグローバリズムの不合理に世界が気づきはじめたようです。16年の米大統領選で自由貿易ではなく保護主義を訴えるトランプが勝利したこともそれを物語っています。また、イギリスが国民投票でEU離脱を選択したことも、EUというグローバリズムへのイギリス国民の反発が強かったことにほかなりません。ただ日本だけが世界の潮流に逆行して、いまだにグローバリズム、挙げ句の果てにこれから多くの移民を受け入れようとしているのです。経済や政治は失敗してもやり直しが利きますが、移民だけは不可逆過程でやり直しが利きません。