頼まれると断れないクセに、引き受けたあと後悔する。いつも穏やかでいたいのに、ちょっとしたことでイライラしてしまう。

 性格のいい人ほど損をしてしまう……そんな世の不条理、世の中の苦難に、哲学者と禅僧がさらっと回避する方法を伝授します。

(内容・肩書は、2017年9月18日号掲載時のままです)

Q1.なぜ私は、頼まれると断れないか?

僕は頼まれた仕事は断らないよ。せこいからね(笑)。これまで250冊の著作があるけど、それだけの量を書けたのは、断らなかったから。もちろん自分の仕事もする。そのために目標を立てて、10年で1冊ずつ、これはという長い本を書いています。最初にヘーゲル、次にマルクス、昭和思想史、現代思想、人生の哲学とやり続けました。いっぽうで、その間に来た仕事は断らないでやる。

75歳になって、さすがに体力はなくなった。最近『日本人の哲学』という分厚い本を書いたが、立ち上がれなくなったもん。でも僕はケチだから仕事をセーブしようなんて思わない。何でもします。できると思いますから、やります。よく、あんな汚い文章を、あんな雑文を、って言われるけど、それはそうだと思うよ。勢いで書いてるからね。でも直したら、いいところがなくなるんでない?

どんなに売れた人でも普通は10年だよね。10年書き続けたら、種は尽きなくても、しんどくなるし、違うものを書きたくなります。担当の編集者も代わってしまう。初めての仕事が僕の本だった、というような編集者も年をとっていなくなる。下手をすると死んだりするわけです。

普通にやっていたら、注文来なくなるよね。だからせこくても、来る仕事をせっせとやっています。ほとんどお金になんないけど、まあいいよね。それに、何かひとつ仕事をやるでしょう、そしたらまたもう少しやりたくなるのね。軽い仕事をしたら、本格的なこともやりたくなる。頼まれた仕事の合間に、長いものを書きたくなる。そういう振り幅があると、ずっと続けられるんです。

もっとも、あんまり頼まれることが多くなるとしんどくなるね。受け身になるから。恋愛もそうでしょう。女の人5、6人に、毎日追われてごらん、これはしんどいぜ。だけど、何でも自分の思い通りにできたら、それはもう独裁者だよ。そんな人生が面白いかってこと。これは仕事以外でも言えることでさ。頼んでくれる人がいるから、居場所が生まれるんだよ。結局は、向こうからやってきた運命に身を任せるしかない。自分がいくら求めても、そこに自分を受け入れてくれる人がいなけりゃ、何もできないんだから。タダだって頼まれたことは、したほうがいいんだよ。

A1.断らない先に、福がある

鷲田 小彌太(わしだ・こやた)
哲学者。札幌大学名誉教授。ベストセラーになった『大学教授になる方法』のほか著書多数。最新刊『日本人の哲学』(言視舎 全5巻全10部)。