極限までモノや情報、人付き合いを減らす「ミニマリスト」と呼ばれる人たちが増えているという。「捨てる」ことでどんな効果があるのか。達人に聞く。(内容・肩書は、2016年4月4日号掲載時のままです) 

机にはPCとコーヒーだけ

ChatWorkのオフィスにはモノがない。仕切りのない空間に、大きなテーブルと椅子があるだけだ。座席は固定されておらず、40人前後の社員はてんでんばらばらに好きな場所に腰掛けている。個室の会議室は設けず、ある一画では7~8人が固まってミーティングを行い、隅のほうには1人で黙々と作業する人。オフィス内の柱に埋め込まれたホワイトボードを使い、相談しあう者もいる。

河野智英子(左)ChatWorkマーケティング部アライアンスチーム/田口 光(右)ChatWorkチーフラーニングオフィサー

仕事に使うのは、社員が持参したノートパソコンのみ。一般的な企業にあるようなプリンターや複合機、メモをとる紙やペン、書籍やファイルに綴じられた資料の類いは一切ない。机には棚や引き出しはおろか、電話もない。まるでレンタルオフィスか、引っ越ししてきたばかりのオフィスのようにも見えてしまう。一年前に転職してきた河野智英子さんは、初めてオフィスを訪れたときにキョトンとした。

「何もなさすぎて、打ち合わせスペースなのかと思いました。前職では、分厚い紙の資料を持ち歩くのが当たり前。オフィスには備品や資料が溢れて、雑然としていました。どうすればパソコンだけで仕事ができるのかな、って不思議でした」

しかし、戸惑うのは最初だけだったという。新入社員は一様に、何もないオフィスに馴染んでいく。半年前に入社したチーフラーニングオフィサーの田口光さんは、忘れ物の心配から解放された喜びを語る。

「指紋認証システムで入室するので、社員証や鍵はつくっていません。忘れたから入れないとか、なくして始末書を書くなんていう面倒がないんです」

そのうえ、集中力も高まってきた。

「視界に入るものが多いと、注意力が散漫になってしまいますよね。何かが動くと気が散るし、揃え直したくなる。モノがないおかげで、仕事に専念できるようになりました」(田口さん)

ChatWorkは、メール、電話、会議に代わるコミュニケーションツール「チャットワーク」の運営企業だ。グループ登録をすれば社内全体で情報の共有が可能になり、必要な資料、連絡はすべてクラウド上のやり取りで済んでしまう。個人のメールやスケジュールの管理機能もついている。2016年3月でサービス提供開始から5周年を迎え、世界205カ国、9万社以上への導入をしている。拠点を大阪と東京に構えているほか、最近ではアメリカ、シリコンバレーにもオフィスを構える。

「社長の山本敏行が調べたところ、ビジネスマンは年間で150時間もモノを探しているそうです。どこに何を置くか、意思決定にも時間を費やしている。モノをなくして、作業効率の高い快適な職場環境を実現することが、創業当初からの理念です」(田口さん)

冒頭で紹介した、徹底的にモノが排除されたChatWorkのオフィスは、同社が提案する働きやすい環境の理想形だ。「チャットワーク」を利用するほかは、指紋認証システムを置くなどして、モノがなくても業務が円滑に進むためのシステムやマニュアルが緻密につくられている。完璧なシステムのおかげで、新入社員もすぐにモノがない異質なオフィスに馴染めるのだ。