マネーフォワードでは年功序列ではなく、能力次第で年齢も経歴も関係なく出世し、社員ひとりひとりが高パフォーマンスを発揮する社風があるそうです。どうすれば年上の社員が“扱いづらい邪魔者”ではなく、ともに戦える“戦力”に変わるか? 苦労の末にたどりついた辻社長「年齢を問わないマネジメント戦略」とは?(2023年3月6日レター)
年下上司は遠慮があり、年上部下にはプライドがあるのが現実です。年功序列ではないカルチャーが浸透しているはずのマネーフォワードでも年下上司と年上部下のトラブルは起きていて、人間関係はつくづく難しいものだと思います。
先日も、30代のマネジャーから「40代部下をうまくマネジメントできない」と相談を受けました。話を聞くと、たしかに本人の言うことは正論の部分もありました。ただ、上司の仕事とは正しさを部下に押しつけることではなく、チームとしてアウトプットを最大化することです。「型にはめようとするのではなく、部下に活躍してもらうためにどうしたらいいのかを考えたほうがいいのでは」とアドバイスしました。
実際、マネジメントに唯一の正解はありません。ある人には効果的なマネジメントが、別の人には逆効果になることもあります。扱いづらい年上部下がいて正論が通じないとしても、部下を全否定してはダメです。その人の強みを活かしていくことが、結果的に自分のマネジメントの幅を広げることになります。
私も年上部下と接する中で、コミュニケーションのスキルが鍛えられました。もともとはオープンな議論が好きなのですが、それがいつも通用するとは限らず、むしろ根回しや配慮も必要であることを学びました。年上部下とのコミュニケーションで、私が学んだことを具体的にあげていきましょう。
まず、ダメ出しは1on1が大原則です。みんなの前で見せしめの意味を込めてやりこめるのは相手の体面を無意味に傷つける行為であり、絶対に良くない。テキストであっても同じです。みんなが読んでいるメールやチャットでやるのではなく、個別に伝えるべきです。
改善してほしいところがあるとしても、いきなり本題に入るのは得策ではありません。まずいいところを評価して、全否定ではないことをわかってもらってから、次に改善すべき点について指摘をします。それまでに培った信頼関係にもよりますが、信頼関係がまだ強固ではない相手ほど、ダメ出し=人格否定と誤解されないように慎重にコミュニケーションを取りたいところです。
年上部下と信頼関係を築きたければ、ときにへりくだることも効果的です。たとえばやってほしい仕事があるときに、「やってください」と単に指示を出すより、「○○さんはこれについて経験豊富ですよね。私は苦手なので助けてもらえますか」と言ったほうが、相手は気持ちよく仕事ができるのではないでしょうか。
部下にへりくだるなんて上司らしくないと考える人もいるでしょう。実は私自身、経営者という立場になってからは自分の姿勢に悩みました。昔から人に嫌われることはしたくない性格で、つい相手が気持ちよくなることを優先してしまうのですが、「嫌われることを恐れず、ズバスバものを言う強いリーダーであるべきでは」と迷うことがしばしばあったのです。
しかし、ボストン コンサルティング グループ日本代表を11年務めた御立尚資さん(現在はマネーフォワード顧問)から、「嫌われたくない性格なら、それを活かした目標設定すればいい。自分がコンフォータブルに感じるやり方で経営することが大事です」と助言をもらってふっきれました。近年、自分らしさを大事にする「オーセンティック・リーダーシップ論」が注目されていますが、私の場合は「人に嫌われたくない」が自分らしさ。へりくだることで相手が気持ちよくなり、自分もまた自分らしくいられるなら、それでいいと思えるようになりました。
繰り返しになりますが、マネジメントに唯一の正解はありません。「こうあらねばならない」と頑なに考えるのではなく、相手の性格や状況、そして自分に合ったやり方を模索していくことが大切だと思います。
次回は、スタンドプレーに走りがちな“言うことを聞かない部下”を、どうすれば改善させることができるのかをお話します。(つづく)