トヨタの強さを支える「トヨタ生産方式」。その根幹は「片づけ」にある。75年以上にわたり効率化を重ねた知恵は、オフィスでも実践可能だ。デスク、引き出し、メール・名刺、書類の整理法を伝授する。
トヨタ自動車の名誉会長、張富士夫さんは「トヨタ生産方式の根幹は、黄線を引くことにある」とよくおっしゃっていた。トヨタの工場は床に黄色で区画線が引いてあるが、実際、この線の引き方ひとつで工場の安全性、従業員の動線、作業の効率といったさまざまなことが決まってしまうのである。
これはトヨタの5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)の底流をなす考え方のひとつであり、工場だけでなく一般のオフィスにも応用可能である。
さて、整理とは「必要なものと不要なものを分けて、不要なものを処分すること」だが、整理が苦手な人は不要なものを処分すること、つまり捨てることができない場合が多い。
そこでトヨタでは、現場を整理する際、赤札作戦を展開している。現場にあるすべてのモノを以下の三つに分類し、それを記入した赤札を貼っていくのである。
・「使うもの」
・「使わないもの」
・「使えないもの」
重要なのは「使わないもの」と「使えないもの」の線引きだ。トヨタでは「使わないもの」は「いつか使うかもしれないもの」、「使えないもの」は「壊れているもの、古いもの」と定義している。こう定義することによって、「使わないもの」は保存するか、捨てるかを検討し、「使えないもの」は廃棄すればいいことが明確になる。モノが捨てられないのは、この線引きをしないからなのだ。
赤札作戦によって「使えないもの」を捨てたら、次に考えるべきはモノの配置だ。トヨタではモノの配置を考えるとき「動作経済」という概念を用いる。これは人の動き方によって生産性が変わるという考え方だ。たとえば、作業中にかがむ回数が多くなれば、生産性は大幅に落ちてしまう。
デスク周りのモノの配置は、動作経済を基本に考えれば自ずと定まる。キャビネットを背後に置いたり、右利きの人が、文房具を左側に置いたりすれば、振り向いたり腰をひねったりする動作が増え、時間のロスが大きくなる。モノを取るたびに一秒無駄にすると、年間では膨大な時間を無駄にすることになってしまうのである。
なぜ予備は不要なのか
企業から業務改善を依頼されたとき、私は最初に個人のロッカーを見せてもらうことにしている。ロッカーの中が整理整頓されていない人は、間違いなく仕事ができない人である。机の引き出しも同じことで、トヨタのある部署では引き出しから必要なモノを一〇秒で取り出せることが常識である。
引き出しの中を整理するには、逆に、なぜ引き出しの中がぐちゃぐちゃになるのかを考えてみるといい。たいていは、同じものが複数個入っていることが原因である。特に鉛筆、消しゴム、ボールペンといった値段の安い文房具は数が増えがちだ。安いからといってついつい余分に買ってしまい、引き出しの中がぐちゃぐちゃになってしまう。
予備は必要だと主張する人がいるが、同じモノが複数個あると明らかに仕事の効率が落ちる。たとえばボールペンが三本あれば、たいてい使えないものが一本は交じっており、使えるものを探すだけで数秒が無駄になる。引き出しの中に入れるのは、必要なものを一種類一個を原則とすべきなのである。
それを実行するには、トヨタで行われている「姿置き」が有効だ。引き出しのトレーに文房具の絵や名前を書いてしまい、使ったら必ずその場所に戻すようにする。こうすれば、同じモノを複数持つことは絶対になくなる。