極限までモノや情報、人付き合いを減らす「ミニマリスト」と呼ばれる人たちが増えているという。「捨てる」ことでどんな効果があるのか。達人に聞く。(内容・肩書は、2016年4月4日号掲載時のままです)
29歳でマッキンゼー最年少役員に
テレビやインターネットのニュースは見ない、新聞や本も読まない、SNSもしない――情報が氾濫する世の中だからこそ並木裕太氏は意識的に情報を遮断している。
並木氏は経営コンサルタントとして2000年にマッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社に入社。29歳のときに最年少でアソシエイトパートナー(役員)に昇進した。その後、09年に独立し、フィールドマネージメントの代表を務める。これまで手がけた案件は数知れず。日本航空やソニー、日本交通などの企業経営のコンサルティングはもちろん、プロ野球の北海道日本ハムファイターズやJリーグの湘南ベルマーレといったプロチームの運営、パ・リーグやJリーグといったスポーツのリーグ全体を見渡したアドバイスまで幅広い分野に携わり、結果を残してきた。昨年には、MBAを取得したペンシルべニア大学ウォートン校の「40 under 40(40歳以下の卒業生で最も注目すべき40人)」にも、日本人で唯一選出された。
順風満帆に見えるコンサルタント人生だが、はじめは苦労したという。
「マッキンゼーに入社して3、4年は劣等生でした。誰からも見向きもされなかった」
なんとか成果を出そうと、マッキンゼーのルール通りに情報を集め、外部との打ち合わせ前の「インタビューガイド」、打ち合わせ後の「インタビューノート」など膨大な資料も作った。しかし、評価は上がらない。
価値のある、オリジナリティのあるアイデアを思いつくにはどうすればいいか。考えついたのは、情報の集め方を変えることだった。
「誰でも得られる情報からは誰でも思いつくアイデアしか浮かばない。希少価値の高い情報をベースに考えれば、自ずと斬新なアイデアになります。たとえば、日経新聞を読んでいる人はごまんといるけれど、その道のプロから話を聞いた人は限られる。そこで、担当していたコンビニ業界に精通する人物を探しました。伝説の店長やコンビニ出身の経営コンサルタントなどを探し、会いにいったんです。若くて、人に会うしか活路がなかったんですが、結果的には一番有効な手段でした」
何人かの話を統合し、ひねり出した“生きた”アイデアを社内の打ち合わせで発表すると、一気に上司であるパートナーからの注目を集めた。会いにいったのはたった三人。情報量が圧倒的に少なくても、最高の結果を出せると知った。
「晩年をアメリカで過ごしたドイツ人建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉に“Less is more”というものがあります。数を減らして、限られたものの価値を高くする。メジャーリーグのニューヨーク・ヤンキースは、09年に球場を新設したとき、わざと座席の数を減らしました。一席あたりの価値をあげて、入場料収入をあげたのです。“Less is more”は、情報にも当てはまります」
情報を闇雲に浴びることで害になることもある。
「僕は影響を受けやすいので、新聞や本を読むと、人の意見を自分の意見のように勘違いしてオリジナルの発想ができなくなる。みんなが思いつくことを自分が思いついて新しい発明をしたような気になることはしたくないんです。知っている情報を増やしていろいろなことに詳しくなる“情報屋”になることと、オリジナルのアイデアを生むことは僕の中ではトレードオフになると思っています」
最低限の情報で独自の発想を生むため、常日頃から情報の少ない環境づくりを心がけているという。
「人に比べて、スマホを見ている時間が圧倒的に少ないです。一日せいぜい三〇分程度でしょうか。情報を遮断する目的もあるし、もう一つには思考する時間をつくるためでもあります。移動の車や電車の中でもスマホを見ることはなくて、ひたすら考え事をしています。自分の頭で考えた分だけオリジナリティは高まっていく。考えるテーマは、担当する案件の数だけ常に頭の中にあります」