日本に深く浸透している『論語』。秩序と道徳を重んじる儒教の思想は、二五〇〇年の古より変わらぬリーダーたる覚悟と心構えを説いている。(内容・肩書は、2014年6月16日号掲載時のままです)
損得抜きの謙虚な人付き合いをしているか
今から二五〇〇年以上前に書かれたのが、論語です。これだけ長い年月、人に読み継がれているのは、そこに古今東西の普遍的な生き方や仕事のしかたに通ずる「原理原則」があるからに違いありません。
私は二十代の銀行員時代、理不尽な上司にどう対応すればいいかわからず悩んでいたときに初めて論語に触れました。そして、「リーダーとはどんな人物か」を知り、「ついていくべき上司か否か」の区別ができるようになりました。それ以来、何度も論語を読み返しています。
なかでも「子曰く、晏平仲(あんべいちゅう)、善く人と交わる。久しうして人、之を敬す」は、私が最も好きな言葉です。
晏平仲とは、乱世の時代であった春秋時代において一、二を争う名宰相と謳われる人物。一般的に、人は、出会った当初は愛想もよく礼儀正しいけれど、付き合いが長くなると、次第に自分のボロが出て、人のアラも見えてきます。しかし、この晏平仲という人はその逆で、多くの人と交流し、長く付き合うほど周囲から尊敬の念を抱かれた人格者だったと伝えられています。
言うまでもなく、ビジネスを成功に導くために「久し」く、「善く人と交わる」ことは不可欠です。しかし実際には、第一印象はいい、プレゼンもうまいけれども、顔を合わせる回数が増えると、実は「仁」がなく自己中心的な傾向があったり、誠実さや信念のようなものも感じられなかったり、さらにはブレることも珍しくありません。経営者などリーダー層でさえも、そうした残念な人が多いように感じられるのです。
では、どうすれば晏平仲のような存在になれるのか。それは、後述するように、「利」を考えない、つまり損得を考えない人付き合いに徹することですが、それだけでは足りません。現代のような膨大な情報が氾濫する社会では、一人でできることには限りがあり、多くの人の知恵を借りる必要があります。よって、人的なネットワークの構築を確実にすることが重要だ、という意識を今まで以上に強く持つべきです。
人脈こそ、財産。そして、自分の利だけのために人脈を使わない。そう考えれば、相手の立場・状況に配慮した行動ができる。謙虚になり、人間的な成長もできる。結果的に、自然と付き合いは長く続き、信頼関係をより強固なものにでき、人を見分けることもできるはずです。この論語の言葉を読むたびに、私はこの人付き合いの本質に立ち戻るのです。