「悪魔の書」などと呼ばれつつ、多くのリーダーに読み継がれてきた『君主論』。現代のマネジメントにも通じる究極のリアリズムを心理学的に解説する。(内容・肩書は、2014年6月16日号掲載時のままです)

仕事を円滑に進めるには時に「二枚舌」も有効か

ルネサンス期のイタリアの政治思想家、ニッコロ・マキアヴェリの『君主論』には、現代の厳しいビジネス環境を生き抜くためのヒントが多い。「マキアヴェリズム」と呼ばれる彼の思想の根本は、性悪説です。成功しようと思えば、多少の狡猾さは必要です。狡猾さの根底にあるのは「柔軟さ」。とくにビジネスの世界では、状況に応じてズル賢く立ち回ることも、処世術として重要なスキルなのです。

例えば部下のルール違反を知ったとき、怒りや動揺を覚えない上司はいないはず。違反の程度によっては「部下はルールを破るもの」と性悪説の立場でいれば、その対処法を前もって考えられるし、腹も立たない。悪事をすべて許せというのではありません。状況に応じて判断することが必要なのです。「悪事(違反や不正)を見逃す」ことは、必ずしも「不善」ではありません。杓子定規に「会社のルールを破った」と、何でもかんでも査定や評価の対象にしてしまえば、逆に部下は働く意欲をなくし、上司を恨んでしまう。

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マキアヴェリの考えに基づくと、中間管理職の立場であれば、部下に言うことと、上司へ伝えることが違っていてもいい。つまりは、自分の立場を守りたいのであれば、時と場合によっては演技も必要だということです。例えば、部下に「制度に納得できない。部長に変更を掛け合ってほしい」と頼まれたとする。しかし変更は無理と、はなからわかっていたらどうするか。「よし、俺に任せておけ!」と言っておいて、部長には伝えず「いろいろ掛け合ったが、変更は難しいらしいよ」と、後で部下に言えばいい。部下は落胆するでしょうが、掛け合ってくれた上司を恨んだり、非難することはないでしょう。バカ正直に部長に伝えれば「おまえは部下の小間使いか」と、自身の評価を下げてしまいかねない。つまり、臨機応変に善を用いたり用いなかったりすることが大切だと、マキアヴェリは忠告しているのです。

内藤さん所蔵の『君主論』。本のあちこちに線が引いてある。