不機嫌な妻、無気力な子、頑迷な老親……家族をめぐる苦悩の克服には、“今日より悪い明日”を直視する徹底したリアリズムが必要だ。(内容・肩書は、2014年6月16日号掲載時のままです)
家族関係の基本は「ギブ&ギブ」
聖書は一〇人読めば感じることは一〇人とも違います。難しく考えずに直接テキストに当たって、直観と感情で読むといい。『新約聖書』の最初の四福音書(マルコ・マタイ・ルカ・ヨハネ)とすぐ後の「使徒言行録」をお勧めしています。
人間関係、特に夫婦や親子など家族関係で悩む方に知ってほしい言葉は、その「使徒言行録」の二〇章三五節「受けるよりは与える方が幸いである」に尽きます。家族関係はいわゆる「ギブ&テイク」ではなく「ギブ&ギブ」が基本です。
人間の心理は不思議なもので、モース(仏・文化人類学者)が『贈与論』で詳しく論じているように、与えられ続けると、ある臨界点を越えたところで相手に返したくなるんです。逆に返せぬほどの恩を受けると、そこには力の上下関係が生じます。
求めるより与える。惜しみなく与える恩は、家族の中でも力関係として働きます。夫や親としての威厳を保つなら、それが一番の方策です。
ただ、与えるといっても、妻や子供が欲しがるものを、何でも買ってやるということではありません。お金や物とは限りませんし、必要としているものでなければ無意味です。
とかく夫婦は互いに要求を突きつけ合いがちです。思い通りにならないと、それが不満となって積み重なり、関係がぎくしゃくしていきます。さらにエスカレートして、相手はいつも不機嫌、口を開けば諍いになる。そうなったらもう最終段階。さっさと離婚するのが得策です。
無責任な話だと思われるかもしれませんが、キリスト教は、解決できぬ問題に立ち向かうような無意味なことはしないのです。「ギブ&ギブ」を実践するには、まず自分が家族に何を「与えられる」のかを知る必要があります。実は、それを真剣に考えることが、今の社会を生き抜くカギになるのです。