いま、世界は激しい時代の転換期にあり、ビジネスにおいてもリスクが大きく先が見通しにくい状況と言えます。そんな時代に、わたしたちはどうすればメンタルの状態をよくして、多くの生きがいや働きがいを見つけていくことができるのでしょうか。自己肯定感ブームをつくった第一人者である心理カウンセラーの中島輝さんに、「最強のメンタル」を装備するための、自己肯定感を高める具体的なメソッドを聞きました。

自己肯定感は心の「免疫力」

「自己肯定感」という言葉は、「セルフ・エスティーム(self-esteem)」の訳語として使われはじめ、アメリカの心理学者ウィル・シュッツは、「自分としても誇りに思い、他者からも十分に認められるであろうという自負心・自尊心」と説明しています。

しかし人間は、社会のなかで生きている限り、心を傷つけられることが必ずあるものです。そこで、そうした傷に対処していくには、大きくふたつの方法があるとわたしは考えています。

① 外部からの攻撃を防御すること
② 傷を受けた後に早く回復すること

①は、頑丈な鎧を身に着けるようなイメージです。鎧を着ていれば、ある程度の攻撃なら防ぐことができます。ただし、鎧は万能ではありません。鎧には隙間がたくさんあるため、防ぎようのない箇所から傷つけられるかもしれませんし、鎧を貫くような強力な攻撃を受けることもありえます。

そこで、もうひとつの対処法が②です。たとえ傷を受けたとしても、すぐに回復できる力があれば、傷つけられること自体は大きな問題ではなく、無闇に恐れる必要はないということです。隙間から入ってきたネガティブな外部要因や、自分の内側から湧き起こるマイナス思考などに対して、自分の回復力を上げることで対処していく??。このような、心のなかでのマイナスからプラスへの「視点移動」をうまく行えるタイプが、「自己肯定感が高い人」と言えるでしょう。

自己肯定感は、人間の体が持つ「免疫力」による作用に似ている面があります。体に受けた傷が自然に治癒する仕組みがあるように、心についても同じことが言えると考えてください。また、免疫力は誰にでも備わっており、毎日の習慣や、本連載で紹介するトレーニングによって高めることが可能です。

自己肯定感を構成する「6つの感」

いま、リーダー職やマネジメント層にあるビジネスパーソンの人や、積極的にキャリアアップを目指している人たちは、世間的には「メンタルが強いタイプ」と見なされることが多いかもしれません。

一方で、キャリアアップをするごとに、部下が増えたり、数字を厳しく求められたり、専門性をより問われたりするといった、これまで感じたことのないプレッシャーを受けることもあるでしょう。一般的に、立場が上がれば上がるほどメンタルの負荷は増えていきます。

それに打ち勝つためには、先に述べた「外側の鎧」と「心のなかの視点移動」によって、自己肯定感を高めていくことが重要です。では、自己肯定感はいったいどんな要素から成り立ち、どうすれば高めていくことができるのでしょうか? わたしは、自身の心理学をはじめとする研究と、何千例ものカウンセリング経験をもとに、自己肯定感を構成する要素を、次の「6つの感」として分類しました。

① 自尊感情
② 自己受容感
③ 自己効力感
④ 自己信頼感
⑤ 自己決定感
⑥ 自己有用感

この「6つの感」を高めていくための効果的メソッドを、【前編】【後編】にわたって紹介していきましょう。

リフレーミングで「自尊感情」を高める

まず、ビジネスパーソンにとって、「① 自尊感情」はとても大切な要素です。自尊感情とは、「自分には価値がある」と思えることです。自分に価値を見出すことができると、仕事においてやりがいや働きがいが生まれてきます。

仕事でステップアップを果たしたり、新しい事業を展開したりするときには、いいことばかりではなく、必ずマイナス要素が出てくるものです。課題や目標が高いほど、大きな壁が立ちはだかります。そんなときにぜひ実践してほしいのが、「リフレーミング」というメソッドです。

これは、つい使ってしまいがちなネガティブな言葉を、意識的にポジティブな言葉へと書き換えていく方法です。言葉は潜在意識に働きかける力があるため、それによって意識的にものごとの見方を変え、そこから前向きな価値や肯定的側面を見出していくわけです。

単なる言葉の書き換えではなく、具体的な状況にも活用できます。例えば、あるビジネスパーソンの強みは営業力だとして、弱みはデジタルが苦手なことだとします。でも、デジタルが苦手という弱みにとらわれて、やりがいや働きがいを失うのはもったいないことですよね。では、どうリフレーミングするかというと、「アナログが得意」と考えるということです。

これまで以上にいろいろな人脈をつくって仕事の幅を広げ、より得意なアナログ方面に集中しながら、苦手なデジタル面はほかの人にまかせることもできます。すると、弱みだったはずの部分が、弱みに思えなくなってくるのです。そうして自分の肯定的な側面へ視点を移していくと、自分の「強み」がより明確になり、行動が的を射たものになっていきます。自分の弱みの再定義・再評価ができれば、仕事がより楽しくなり、毎日生き生きとして過ごすことができるようになるはずです。

ありのままの自分を受け入れる「自己受容感」

ふたつめの「② 自己受容感」は、ありのままの自分を認めて、受け入れる感覚のことです。仕事では、毎日の結果が必ず出るため、それに対するネガティブな評価を受けることもあります。どんな人もマイナスな結果やネガティブな評価は嫌ですから、そんなことにずっと心をとらわれていると、たとえメンタルが強い人でも心はどんどん弱っていきます。

また、自分を受け入れる力が下がると、「自分はもっと上に行きたい」と思ったとしても、すぐに「いや、うまくいくわけがない」と、自己否定をしてしまいます。論理的に考えると、すべてがうまくいかなくなるわけはないのですが、自己受容感が低くなると、どうしてもマイナス感情にとらわれてしまうのです。

自分に対する「いい評価」を毎日行っていく

そこで、自分自身を受け入れるための効果的なメソッドとして、「スリー・グッド・シングス」を紹介しましょう。これは、一日の終わりにその日のことを思い返して、「自分のよかったところ」や「評価をしてあげられる点」などを、毎日3つ書き出すという方法です。

中堅以上のビジネスパーソンになると、仕事でのプレッシャーが増すにもかかわらず、周囲からほめられる機会はどうしても減りがちです。次から次へと降りかかる課題やタスク、高い目標値の設定、世代間ギャップによるコミュニケーションの摩擦、プライベートでのいざこざ……。そんなマイナスな出来事に心が奪われていると感じるときは、自ら自己評価を上げていくことが有効です。

自分に対する3つのいい評価を毎日出していくと、特段周囲から評価されなくても、「グッド・シングス」を探すようになっていきます。また、たとえネガティブな出来事があっても、「失敗するときもあるよ」「マイナスな評価も当然あるよ」というふうに、自己評価を自分で行って、高めていくことができるでしょう。

自分にいい評価を伝え続けていると、マイナスからプラス方向へと、心の視点を移動できるようになります。これを自分で行えること自体に価値があるのです。そうして、自分へのいい評価を増やしながら、明るい夢や希望、課題解決の方向へと向かっていければ、自分に対するネガティブな評価は反比例して小さくなっていきます。

自己受容感を高めるには、自分に対して加点的に考えていくマインドを、ゆっくりでもいいので毎日つくっていくことが大切なのです。

ここでは、①自尊感情と②自己受容感について見てきましたが、【後編】では、③自己効力感、④自己信頼感、⑤自己決定感、⑥自己有用感について深掘りしていきます。

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