仲が悪いと飲まなければいけない、気が進まない宴会。初めから盛り上がらないことが約束されている宴会の幹事になったら、どうするか。お笑いのプロが伝授する「すっぽん理論」とは。(内容・肩書は、2017年12月18日号掲載時のままです)

場違いな飲み物でブレークスルー

仲が悪い人や嫌いな人がいたり、全体的に関係がギスギスしている職場の飲み会って……。考えただけでも憂鬱だし、適当に言い訳して欠席したいですよね。僕はお笑いの世界に入る前、楽天で中古車販売の電話営業やホームページなどの制作担当のサラリーマンでした。ベンチャーで明るいオープンな会社だったので、飲み会はいつも楽しかったですよ。ヒンヤリした空気の飲みの席なんて、想像もつかない。

でも、歓迎会や送別会とか、仲が悪くてもやらざるをえない場合もあるでしょう。もし、自分がそういう飲み会の幹事になってしまったら、「トレンディエンジェル」で漫才をしているとき同様、ボケに徹するでしょうね。

まずは会の口火を切る“ブレークスルー”が大事ですね。たとえば完全な和食の店なのに、ありそうもない飲み物をオーダーします。「とりあえずテキーラね」とか「カシスソーダください〜」って。そこでたとえば「おまえはOLかっ!」と突っ込んでくれる人がいるといいですね。自分のボケをうまくレシーブしてくれるような同僚を、日頃からつくっておくのは大事です。

「笑点」の大喜利作戦もあります。参加者の誰かが面白いことを言ったら、「座布団一枚!」って座布団を自ら山田隆夫さんになって運んでいく。こう考えると、座敷がある和食の店をセレクトするといいのかなあ。

部署内の「あるあるネタ」も使えますね。上司のクセを真似したり、いつもダサい服を着ている奴がいたら、イジってみたり。“あるある”は、笑いの共有と場の一体感を生みます。でも、悪口にならないように注意。相手のプライドを傷つけると、後で大変なことになります。うまくイジれる人がいない場合は、自虐ネタで自分を落とすのが安全でしょう。僕の場合は薄毛という最終兵器があるので(笑)、これを駆使すれば誰も傷つかない。

毛髪ネタといえば……。今お昼の情報番組に出させてもらっています。たまにスタジオの空気を和ませるために、自虐ネタを挟んでいます。MCの俳優さんも薄毛の方なので、先日も彼を巻き込んだコメントでボケてみたのです。ところが、誰も突っ込んでくれないし、妙な沈黙があって(泣)。結局スベろうがウケようが、それが自分のミッションなので、やることはやったという満足感はありました。スベってもめげないハートの強さは、組織の中でも必要だと思います。

とにかく、たとえウケなくてもボケの積み重ねがポイントです。大事なのは質より量。ちょこちょこおかしなことを言い続けていくうちに、場がゆるんでくるでしょうし、「なんだか、意外に楽しいじゃん、たまにはみんなで飲むのもいいもんだな」と、周りが思ってくれればシメたものです。

ボケをずっと繰り返すことの自分なりの意味――それは「すっぽんに噛まれたら、もっと指を突っ込め」というポリシーです。もともとシャイで人見知り、高校時代は友達が全然いなかったぐらいの暗い性格でした。今でも漫才の舞台に上がると、お客さんの顔を見るのが怖くて仕方がない。でも、怖いからといって逃げてしまったら終わりです。自分たちのネタを披露して、ちっとも笑ってくれないお客さんがいたとしても、その人から目をそらしたら負け。逆にそのお客さんをロックオンして、彼が笑うまでしつこくボケを繰り返す。つまり、すっぽんが噛むのに疲れて口を離してくれるまで、指を突っ込み続けるというわけです。

「すっぽん理論」は、舞台以外の仕事の現場でも生かしています。現在ドラマで共演している女優の前田敦子さんに対しても、この理論で攻めました。彼女も僕と同様に人見知りタイプなのでしょうね。根は優しい女性ですが、ちょっと難しい性格のように見えたし、最初はよそよそしかった。だから僕は自分のことをガンガンさらけ出していったのです。たとえば「僕の今付き合っている彼女ってこういう人で、こういう性癖があって」とか(笑)。また、彼女は意外に、人との会話で適当に受け答えすることがあったので「あっちゃん、適当な性格だよね。僕は無理だわ」とか言うと、徐々に笑い顔を見せて、素の自分を出してくれるようになった。格好つけて言うと、「俺も裸になるから、君も裸になれよ」みたいな。

舞台や撮影現場と飲み会を一緒にはできませんが、ベースの部分で「すっぽん理論」は使えると思うんです。飲み会も仕事のうち。腹をくくって場を盛り上げたいと思ったら、スカしてる人たちが根負けするくらいのボケを打ち続け、向こうに「もう笑うしかない」と思わせるのも手です。

冒頭でも言いましたが、嫌いな人や苦手な人と、お金を払ってまで一緒に飲みたくないのがホンネ。でも、組織では、好きな人とだけ付き合うわけにはいきません。どんな相手でも受容する気持ちも大切ですよね。だから「この人苦手なタイプ」だとか「性格が難しそう」とか、そういう決めつけはやめたほうがいい。「自分と価値観が違う」人だとしても、それもその人の個性。しらふの状態ならできないけれど、酒に酔った勢いで自分をぶつけたら、相手のいいところが見えてくるかもしれない。素朴なかわいい部分が見えたり、嫌いな上司からいい話を聞けたりするかもしれません。

ボケや自虐に徹するのは、ものすごく気を使うし、大変なこと。嫌いな人を受け入れるなんてキレイごとかもしれない。でも、「○○さんも頑張ってるんだなあ」と、周囲が思ってくれたら、部署内での自分の評価が上がるし、上司の覚えもよくなります。決して損なことではないですよね。

最後に、ギスギスした職場の飲み会を盛り上げる方法をまとめると――。小ボケを打ち続ける。誰かをイジるか自虐ネタで笑いを共有する。手強い相手を「すっぽん理論」で落とす。ここまでやってダメだったら、うーん、もう諦めるしかないな(苦笑)。

斎藤 司(さいとう・つかさ)
お笑い芸人、俳優。1979年、神奈川県生まれ。会社員生活を経て、2004年にたかしとトレンディエンジェルを結成。15年M-1グランプリ王者になる。「民衆の敵~世の中、おかしくないですか⁉~」(フジテレビ系)に出演中。(内容・肩書は、2017年12月18日号掲載時のままです) 
 
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