お客様との立ち話に大切なのは「共感」と「深堀の質問」。必ず会話のきっかけになる「鉄板ネタ」があるという。お客様との会話をスムーズにさせる言葉「木に椎茸」とは何か。セールス人材育成のプロが教えてくれる。(内容・肩書は、2017年12月18日号掲載時のままです) 

「何か話さなきゃ」という恐怖の克服

若い人は本当に雑談が苦手ですね。「雑談って、どう話せばいいんですか」と聞くことじたい、すでに雑談ではない(笑)。例えばお客様の自宅を訪問して、「今日はこの話で伺ったんですが、すみません。お水を一杯いただいて落ち着かせてください」なんていうのが雑談じゃないですか。すべてがビジネスマターになってしまうから、終始緊張するのだと思いますね。

そういう人の苦手なタイプは、ほぼ間違いなく無口な人。会話すらできなくても、「何を考えているのかわからない」「まあ、あの人無口だからしょうがないんですよ」で終わってしまう。

でも、そんな相手と仕事か、もしくは偶然立ち話を強いられた場合、「何か話さなきゃ……」という恐怖はどうすれば克服できるのでしょうか。

一言で言えば、情報収集です。会話のきっかけには、「暑いですね」「寒いですね」から始まっていろいろありますが、きっかけをつくるネタの多寡は、観察力というか、普段どれだけ物事に目を配って情報を集めているかで決まると思います(図①参照)。

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例えば、駅に向かう道すがらどんな人とすれ違ったか。街中にどんな建物や像が立っているか。「ああ、ありましたね」と返ってくる人と、「そんなのありましたっけ?」と首を傾げる人。営業マンでいえば、経験上、前者のほうが間違いなく腕がいいですね。

常日頃、ちょっとしたことを「これは何だろう?」「なぜここにあるんだろう?」と常に意識するようになれば、例えばたまたま相手が身につけている衣服やバッグ、時計を見るだけで会話のきっかけになることもあるわけです。

話す場所が選べるなら、情報収集がしやすい取引先の拠点やお客様の自宅で会話するほうがずっといい。お客様のより深いところに接しようとしたら、店頭は非常に不利です。初来店のお客様など、極めて限られた情報だけで会話を組み立てなければなりません。

一方、お客様の自宅はネタの宝庫。個人のお客様ならその方の趣味など、法人の取引先であれば何かの表彰状や自社・他社の取扱商品がわかるようなものが置いてあるはずです。会社のホームページのチェックは当然として、担当者の趣味のような“非公開情報”を、あらかじめ聞けそうな人から聞いておいて、「オペラがお好きなんですか?」などと切り出すやり方もあります。

以前、私の部下が伺ったあるお客様の自宅の庭にはバラが咲いていました。応対に出た奥様に、「きれいですね。お手入れ大変でしょう」と言ったんです。ガーデニングをするのは大体奥さんだし、バラの手入れはものすごく手間がかかる。ちょっときつくて難しい奥様でしたが、「あなた、若いのによく気付くわね」と、部下側との間にあった壁を崩すきっかけになりました。

あるいは、初めて訪れた別のお客様のご自宅に釣りの道具が置いてあった。私も好きなので、釣りの話で大いに盛り上がり、意気投合して6万円もある高級リールをいただいて帰ったこともあります。そういうお客様ならば、ご自身の車の乗り換えだけでなく、お知り合いの方へのご紹介も期待できます。

苦手な相手が社長や無口な上司といった身内だったら、よほどのド新人でもない限り、相手の趣味や好きなスポーツくらいの情報は持っているのでは。例えばエレベーターで鉢合わせした場合、いくら緊張するとはいえ、いきなり怒られるようなこともないでしょう。「お休みは何されてるんですか?」くらいで十分かもしれません。