日本への赴任後、2~3年のうちに、通訳を介せず取材に答えるほどになったデルマス氏。脅威の学習力の秘訣は、とにかく現場経験を重要視する、フランスのエリート教育法にあるという。(内容・肩書は、2019年8月16日号掲載時のままです)

受け継がれるエリート教育の神髄

ただ机にかじりついて暗記をするのが、よい勉強法ではない。フランスの学生時代の経験から、そう考えます。

私は、フランス東部・ナンシー市にある高等鉱山学校でエンジニアとしての学問を学んだあと、パリへ拠点を移し、社会科学系のトップ校であるHEC経営大学院でMBAを取得しました。

ナンシーとパリでの経験や学び方は、私のキャリアに大きな影響をもたらしています。両校とも、フランスの高等教育機関であるグランゼコールに数えられる学校です。

グランゼコールの歴史は古く、ナポレオンの時代に、軍のエリート養成校として設立されたのが始まりです。実務や経営に必要な、あらゆる知識を身に付けられる場所です。

私が学んだナンシーの学校では、講義とは別にエンジニアとして企業で働く機会がありました。部屋に閉じこもって勉強に励むよりも、外に出て、実体験することは、大変価値のある勉強になります。

1年目は、炭鉱の現場で3カ月間働きました。「将来幹部になるための見学」などという生やさしいレベルではなく、現場作業員として、ときにダイナマイトの爆破も担当しました。

チームは、移民のポーランド人、イタリア人、あと2名のフランス人とエンジニアの私、合計5人。

私たちは、夜勤で深夜0時から朝6時まで働きましたが、勤務後、ポーランド人はシャワーを浴び、2時間休憩して、また次の職場に出向いたのです。こういう働き方をする人もいるのかと、そのときは驚きました。

また、イタリア人には別の面で勉強させてもらいました。彼はチームリーダーで、ダイナマイトの使用に関する注意をする役なのですが、ある日、マネジャーにまで注意をしてしまったのです。当然マネジャーは気を悪くして帰ってしまいました。注意するとしても、言い方次第では「しっかり者」とみなされたかもしれません。

こういった人間関係を間近に感じる社会経験は、たいへん勉強になりました。

2年目は、フランス国有鉄道の現場。ちょうどTGVが走り始めた頃で、若いエンジニアたちとの意見交換も刺激的でした。

3年目は、南仏のソフィア・アンティポリスの研究室で、エンジニアとして材料物理の研究に精を出しました。

現場を経験することで、物理や経済などの学術以外に、社会のシステムや人間関係、マネジメントを体感することができました。

勉強だけできても駄目。職場は人間関係で成り立っていることを思い知らされます。

パリにかかわらず、東京、ニューヨーク、どこへ行っても社員、お客様、取引先、組合、様々な人々と触れあうのは変わりません。それぞれの立場があることを理解していないと、ビジネスの成功もありえません。

フランスのビジネスエリートは、ただ物理や経済、数学などの学術を勉強するだけではいけないことを理解しています。将来グローバルに経済を動かす人物になるには、学術以外に「ヒューマニズム」を理解しなければいけないのです。

私は理系のグランゼコールを卒業したわけですが、経済やマーケティングについては深い知識が欠けていたので、パリのHEC経営大学院へ進みました。

MBAを取得して、そのジャンルにも自信を付け、ミシュランに入社しました。経営やマネジメントについて理解しているので、すぐに仕事ができたのです。

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