日本の教育は、「叩きこんで育てる」もの。英国の教育は「引き出す」もの。超難関大学オックスフォード大学で教育学者が学んだものは。(内容・肩書は、2019年8月16日号掲載時のままです)

「だから何?」を自分に問い続ける

天皇皇后両陛下も学んだ伝統あるオックスフォード大学。私は1990年代半ばにそこで学ぶ機会を得ました。両陛下とは、日本で行われた大学関係者が集うパーティーでもお目にかかったことがあります。

オックスフォード大学というとひたすら勉強するイメージがあるようですが、実は割と自由な雰囲気で、スポーツも盛んです。

マストで学ぶ科目以外は何を選択してもOK。美術の学生が社会学の授業を取ったりしてもいい。単位にならなくても、好きなことをのびのびとやっています。

日本と英語圏では学びに対する考え方が違います。「教育」という言葉には、叩き込んで育てるという意味があり、生徒へ一方的に知識を与えるスタイルです。

一方で、英語の「エデュケーション」にはもともと「引き出す」という意味があります。生徒それぞれの才能を引き出すことを意味しています。

かくいう私も、大学の学部までは日本の教育で育ちました。

エデュケーションの文化に馴染んでいくことができたのは、オックスフォード大学で「チュートリアル」という授業があったことも理由のひとつだと思います。

チュートリアルとは、教授と学生が1対1もしくは1対複数名で対話する学習方法です。週1回、あらかじめ与えられた課題に関する書籍を数十冊読み、レポートを提出、それをもとに教授が学生に厳しい質問を投げかけます。

少しでも曖昧な回答をすると、“So what?”(だから?)と突っ込まれます。これを繰り返しているうちに、自分の理解不足な点や間違いが明確になり、物事の奥の奥まで興味を持ち、理解する力がついていきます。

突然ですが、ここでちょっとしたチュートリアルをやってみましょう。

運動会は何故あると思いますか? 答えは、集団行動を身につけるためです。では何故、集団行動を身につけさせるのでしょうか? それは、現在の運動会が集団主義を推進する時代にできたものだからです。日本の運動会は、海軍の催しが起源です。また戦時中、子どもの体づくりと集団訓練を目的に、政府が積極的に運動会の実施を働きかけていたのです。

つまり私たちは生まれて成長する過程で、誰かがコントロールしてつくられた、集団主義を身につけさせるための隠れたカリキュラムを仕込まれているのです。

隠れたカリキュラムはほかにもあります。

たとえば授業時間。小学校は45分、そこから進学するにつれ授業時間は延び、大学では90分ですよね。何故こうして時間を延ばすのでしょうか? それは、忍耐力をつけさせるためです。では、どうして忍耐力をつけさせるのでしょうか? 答えは、社会人になってからの長時間のデスクワークに耐えられるようにするためです。

宿題も然りです。宿題は、将来「残業」をする習慣をつけさせるためにあるとも解釈できましょう。

夏休みも、冬休みも、たくさん宿題が出る。だから日本人はバカンスを楽しめないんです。ヨーロッパの人たちは、いかに遊ぶか、人生をどうやって楽しむかを考えます。日本人は、楽しみの部分が非常に少ない。

このように、当たり前だという思い込みを疑う力を、オックスフォードの「チュートリアル」で身につけます。