「と、取引先が上司を出せと言ってきています!」部下の失敗の責任を取るのはリーダーの大事な仕事。しかしこうも頻繁に駆り出されては……部下はどうすれば円滑に取引先との関係を継続できるのでしょうか。部下の目を開かせる質問が「先方が期待していることは何だと思う?」です。

「心理的契約」が破綻したとき、取引先は激怒する!

部下が取引先をカンカンに怒らせてしまい、一緒に頭を下げに行くハメに——。上司であれば避けては通れない経験ですが、頻繁に起きてほしいことではありませんよね。

取引先とのトラブルが発生する原因としては、まず、単純なヒューマンエラーが考えられます。振込額を一桁間違えたり、大事な納品日を忘れてしまったりと、クリティカルなミスを犯してしまえば、不利益を被った相手が怒るのは当然です。

ただ、1回の作業ミスが大きな揉め事へと発展してしまうケースは、実は稀だと思います。「申し訳ありません、次は気を付けます」と素直に謝罪すれば、問題はいったん解決されたと相手も考えてくれるはず。もし手に負えないような「大炎上」が取引先との間で起きてしまったとすれば、背後で発生しているのは、コミュニケーションの問題です。

取引先が怒るのは、「この仕事は誰がどこまでやるか」という点において両者の認識に不一致があった場合、すなわち「心理的契約」が破綻したときだと考えられます。

心理的契約とは、文書などで明示的に示されてはいない取り決めを、両者が暗黙のうちに期待している状態を示す経営学の用語です。

新入社員が入社後すぐに辞めてしまうのは、「若手でもやりがいのある仕事ができると思っていたのに、実際は雑務ばかりだった」という落胆が理由に挙げられることは多いですよね。彼らが期待してしまったのは、「1年目からマネージャーに昇任させます」と就業規則に書いてあったからではなく、会社説明会や採用面談で美辞麗句に触れたからです。期待と現実があまりにも乖離してしまうと、新入社員は心理的契約が破棄されたと感じ、退職を選びます。

このように、当事者間の期待値のズレは、致命的な結果をもたらす可能性があります。取引先が契約書以上の成果を期待していたら、あなたがいくら契約書の範囲で業務を完璧に遂行したとしても、取引先はあなたがミスをしたと認識する可能性があります。なぜ相手が怒り心頭なのかわからずに要領をえない謝罪をすれば、取引先は「不誠実な対応をされた」と感じ、怒りを助長することにもなりかねません。