何気ないその行動が、職場の評価の分かれ目に――。一目置かれる人と、バカにされる人のマナーの意識はどう異なるのか。男女500人アンケート結果からある傾向が浮かんできた。(内容・肩書は、2016年5月2日号掲載時のままです)
「時間ギリギリ」は失礼な行動か?
仕事は結果がすべて。きちんと成果を出せるなら、見た目や立ち居振る舞いなどのマナーはどうでもいい――。そう考えている人がいるとしたら、考えを改めたほうがいいかもしれない。心理学者の内藤誼人氏は、マナーと仕事の関係を次のように解説する。
「マナーが身についている人ほど仕事でも成果を出しやすいはずです。マナーとは、人に不快感を与えないこと、つまり相手ヘの気配りです。気を配れる人は、相手が気持ちよく仕事ができる配慮も得意。相手から協力を得られやすく、成果も出しやすくなります」
マナーと仕事の成果には本当に関係があるのか。そこで今回、仕事をしている男女500人にアンケート調査を実施。マナーの意識が年収や男女、業界ごとにどう異なるのかを調べてみた。
まず注目したいのは、マナー教室に通った経験の有無だ。年収800万円以上の人のうち、マナー教室にいったことがある人は40.0%と、年収800万円未満の人の二倍だった。
年収の高い人は、見た目にも気を配っている。靴を磨く頻度を尋ねたところ、「ほぼ毎日」と回答した人は、年収800万円未満では17.3%だったが、年収800万円以上では32.0%だった。これらのデータを見ると、年収が高い人はマナーへの意識が高いことがわかる。
ただし、年収が高い人がマナーを杓子定規に考えているのかというと、必ずしもそうではない。人が真剣に話しているときにスマホをいじるのは一般的にマナー違反とされるが、会議中や商談中のスマホいじりを「許せる」と回答したのは、年収800万円未満が54.7%、年収800万円以上が61.1%で上回った。同様に会議にギリギリの時間に来る人についても、年収が高い人のほうが寛容だった。どうしてこのような結果となったのか。
「年収の高い人は実益重視の傾向があります。形式的なマナーを守ることで利益を逃すリスクがあるなら、相手に失礼にならない範囲で利益を優先させるのです。たとえば会議に遅刻するのは明らかにマナー違反ですが、時間内ギリギリならば約束を破ることにはならない。年収が高い人は、そのバランスがうまい」
年収の高い人は「ツボ」を知っている
それは、ムダ話への態度からも窺える。オチのない話をする人について「許せない」と答えた人は、年収800万円未満で24.8%だったが、年収800万円以上は35.5%だった。
実益が大切ならば、身だしなみについても外見より中身を重視するように思える。しかし、アンケートでは逆の結果になった。シャツの下からTシャツが覗く人について尋ねたところ、「許せない」と答えた人は、年収800万円未満が29.2%、年収800万円以上が40.0%で、年収の高い人のほうが多かった。
これはなぜなのか。内藤氏は「身だしなみは実益だからです」と解説する。「年収の高い人は、身だしなみが信用に直結することをよく知っているので、自ら外見に気を配るだけでなく、人の身だしなみについても厳しいジャッジを下すのです」
では、周りはどのような人に好感を抱き、どのような人に不快感を覚えるのか。次回からチェックしていこう。
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。アンギルド代表取締役社長。立正大学客員教授。実践ビジネス心理学を中心に企業へのコンサルティングも行う。(内容・肩書は、2016年5月2日号掲載時のままです)