いざ手書きで手紙を出そうとしても悪筆が気になって出せない人が多い。そうした悩みを解決してくれるのが青山浩之教授のメソッドで、たった3つのポイントを押さえるだけで美しい文字が書けるようになる。(内容・肩書は、2016年5月2日号掲載時のままです) 

読めない文字の三つの特徴

日常生活にハイテク機器が普及した現在では、手紙を「手で書く」機会が減ったといわれます。挨拶状もビジネスレターもパソコンで作成し、プライベートの連絡までも、電子メールでやり取りしている人が多いのが現状です。しかし、そんな時代だからこそ、手で書いた手紙のよさが見直されるようになったと、私は考えています。

意外に思われるかもしれませんが、文化庁の「国語に関する世論調査」を見ると、いまの10~20代の若い世代では、「手紙は手書き」という人が他の世代に比べ多い結果が出ています。物心ついたときからデジタル文書に囲まれて育った彼らには、手書き文字の新しい価値観が芽生えているのかもしれません。

手書き文字には、書き手の個性や温もり、想いを表現できるという利点があります。画一的なデジタル文字のなかに、個性的な手書き文字が飛び込んでくれば、読み手には強い印象が残ります。それならば、そうした効果を生かさない手はありません。

一方で、40~50代の人は、若い頃には「手書き派」だったのに、いまではすっかり「デジタル派」になってしまった人も多いのではないでしょうか。もしかすると、「自分は字が下手だ」と思い込み、パソコンで文字を印字すれば、それが苦にならないので、常用する志向性が強いのかもしれません。確かに、手書き文字でアピールするといっても、それが悪筆であれば相手に悪い印象を与え、逆効果になりかねません。

では、美しい文字とは何でしょうか?

皆さんはお手本のような文字を思い浮かべるかもしれません。でも、私は誰もがお手本のような文字を書かなくてもよいと考えます。まず目指すべきは「読みやすい文字」「相手に心地よく読んでもらえる文字」。それこそがその人にとっての美しい文字だと思うのです。手書き文字に書き手のクセは付き物ですが、ある程度であればそれは個性であり、持ち味になります。

そう考えると、過度のクセ字、つまり「読めない文字」が悪筆ということになります。悪筆には、①文字の空間がつぶれている、②中心線が揃っていない、③勝手につなげたり、省略したりしている――といった特徴があります。

①は字形の問題です。文字には、線と線で囲まれた空間がありますが、それらの空間がつぶれていると、文字をきちんと読み取ることができません。②は文字が並んだ場合、整列していないので行が蛇行したように見え、読みにくくなります。③は自己流の崩し字によく見られます。行書や草書の基本的なルールに則らないで、文字と文字をつなげたり、文字の点や画を勝手に省いたりすると、判読できなくなります。

そして、それらを続けていると、悪筆はひどくなっていきます。「脳内文字」が読めない文字に書き換えられていくからです。脳には字形を記憶する領域があって、文字を書くとき、その領域の字形データを再現するよう、手を動かす筋肉に脳から指令が出されています。文字を初めて習った子どものときは、お手本に近い文字が書けたという人も多いでしょう。

ところが、大人になるにしたがって、文字を書くときに悪いクセがついていき、その悪筆の字形データが脳に上書きされ、丁寧に書こうと意識しても美しい文字が書けなくなってしまうのです。自分が悪筆だと思う人は、まず文字を書いてみて、どんな欠点があるのかを確認してください。