「記憶力はほぼ集中力」というと、どう思うでしょうか。「そんなもの別の能力じゃないか」と思った人も多いかもしれません。しかし、記憶競技の世界でトップレベルの結果を残してきた記憶のスペシャリストは、まさに「記憶力はほぼ集中力」と語ります。なぜそういえるのか、そしてどうすれば「記憶力≒集中力」を高めることができるのでしょうか。

集中なくして記憶はできない

ビジネスシーンや勉強の場で重要とされる力のひとつに、「集中力」があります。ただ、その定義については意外に曖昧かもしれません。「集中力の定義とは?」と問われたなら、人それぞれ様々な回答が返ってくるのではないでしょうか。わたしなりの集中力の定義はというと、「ノイズを排除してひとつのことに意識をフォーカスする力」です。

そして、この集中力は、ほぼ記憶力といっていいとわたしは考えます。なぜなら、ものごとをしっかり記憶しようと思えば、記憶の仕組みからいっても「きちんと覚えよう」という意志――つまり「やる気」が不可欠だからです。

心理学においては、情報を覚える「記銘」、情報を覚えておく「保持」、情報を思い出す「想起」という3つの段階を経たものが、「記憶」と呼ばれます。

ところが、「自分は記憶するのが苦手で……」という人の多くは、記銘をおろそかにしているようです。「どうせ覚えられない」という気持ちから「きちんと覚えよう」としていないため、そもそも記銘できません。最初の記銘ができていないのですから、その後の保持も想起もできず、結果として「記憶できない」ということになります。だからこそ、しっかり記憶するためには、「きちんと覚えよう」というやる気が欠かせないのです。

では、そのやる気とはなにかといえば、やはり集中力なのだとわたしは捉えています。「きちんと覚えよう」というやる気を持って覚えようとするときには、集中力のスイッチも同時に入っているはずです。集中できていないのに、「よし、覚えるぞ!」というやる気を持てているはずもありません。