以前より、特に語学学習などでは「聴覚学習」という手法が使われてきました。オーディオブックが登場したいまなら、通勤中にビジネス書を聴くなど時間を有効に使う人も増えていることでしょう。実際、聴覚を活用することは、学習や記憶にとって有利に働きます。その仕組みと聴覚を使った効率的な記憶術を、記憶のスペシャリストが解説してくれました。

聴覚を使うことが記憶にとって有利に働く仕組み

脳の「大脳皮質」という部分は、目、耳、鼻といった感覚器のほか、体のあらゆる部分をモニターしています。しかし、それらの部分のすべてを同じようにモニターしているのではありません。

もっとも重点的にモニターしているのは、手と指。それに、唇、舌、耳が続きます。すなわち、手、指、唇、舌、耳は、他の部分と比較するとより多くの刺激を脳に与えているということです。

いうまでもなく、記憶を担っているのは脳です。そのため、より強い刺激を脳に与えられる手と指を使った「手書き」による記憶術が効果的だとされます。そして、手と指に次いで多くの刺激を脳に与えられる唇、舌、耳などを使う「音読」など、聴覚を活かした記憶術も、手書きに劣らず有効だと考えていいでしょう。

もちろん、これには人それぞれという面もあります。ニューヨーク大学の教育学者・リースマン博士は、1996年に「学習するとき、人それぞれで異なる感覚器を優先して使っている」と発表しました。

ひとつは、視覚を優先する「視覚タイプ」。イラストを多用する学習などにより視覚から情報が入ってくると理解しやすいタイプです。ふたつ目は、聴覚を優先する「聴覚タイプ」。音声によって情報を聴くと理解しやすいタイプです。さらに、触覚、味覚、嗅覚などを含めた体感覚を優先する「体感覚タイプ」もあります。誰かに説明されるよりも、自分で体を動かして経験してみることで理解を深めるタイプです。

ですから、これまでテキストを黙読してもなかなか理解が進まなかったり内容を覚えられなかったりしたことで「自分は理解力が低い」「記憶するのが苦手だ」と思っている人も、優先する感覚器のタイプがただ違っていただけということもありうるのです。

そのような心あたりのある人は、ぜひ聴覚を活かした記憶術を試してみましょう。これまでが嘘のように覚えられる可能性が、十分にあります。