わたしたちは、好きで得意なことであればスムーズに素早く効率的に行うことができます。一方、嫌いで苦手なことはそう簡単にはいきません。それは、記憶を担う脳にとっても同じこと。記憶のためには、脳になるべくスムーズに素早く効率的に覚えてもらえるよう、脳の「好きで得意なこと」を活かした記憶術を知るのが近道です。

脳は言葉や文章を覚えるのが苦手

仕事や勉強のためにわたしたちが覚えたいことは、ほとんどが言葉や文章です。しかし、やっかいなことに、脳にとって言葉や文章は覚えにくいものの代表格です。ですから、それらを「イメージに変換する」ことが、しっかりと記憶するにあたって有効な手段となりえます。

でも、なぜ言葉や文章は脳にとって覚えにくいのでしょうか? この疑問に対しては、「脳はそのようにできているから」としか答えようがないのですが、わたしなりの考えをお伝えします。

わたしたち人間は、生まれたときから言葉を理解したり話せたりするわけではありません。言語能力は、学習によって後天的に獲得する能力です。そして、言葉を覚えるには、覚えるべき言葉を理解することが不可欠です。

そのように、「言葉を理解する」という元来的に脳が持っていない能力が求められるため、言葉や文章を覚えることは脳にとって大きな負担となり、「言葉や文章は脳にとって覚えにくい」ということになっていると推測されます。

一方、イメージはどうでしょう? まだ文字による書き言葉を持っていなかった人類だって、洞窟壁画といったかたちでイメージを使っていたことは知られています。古代の人々は、記憶のなかにあるイメージを再現していて絵を描いていたのだと思います。つまり、文字言語能力を獲得するはるか以前から、脳にはイメージする能力が備わっていたと考えるのが自然です。そのため、イメージと記憶の親和性が高いのだろうとわたしは考えているのです。

ここで、ひとつテストをしてみましょう。「キリンを思い浮かべてみてください」といわれたなら、みなさんは何を思い浮かべますか?

なかにはビールを思い浮かべた人もいるかもしれませんが……(笑)、多くの人は動物のキリンの姿、つまりイメージを思い浮かべたはずです。「キリン」「きりん」「麒麟」といった文字が浮かんだという人はおそらくごく少数派でしょう。