ピンチに陥ったとき、人は目の前の差し迫った状況にとらわれてしまい、問題を冷静に解決できなくなったり、うまく人に助けを求められなかったりします。いったいどうすれば、自分を適切にコントロールして、ピンチを脱することができるのでしょうか。人の助けを上手に借りながら、自分で心を立て直していく手がかりを考えていきます。

誰かに「助けを求める」ことが誰かの役に立つ

ピンチに陥ったとき、人はなぜスムーズに助けを求められないのでしょうか? その理由は、目の前の危機的な状況や環境のみに心をとらわれてしまうからです。そして、ほかの選択肢や可能性を思考する方向へ、目を向けることが難しくなってしまうからだと考えられます。

実は、これはある意味では仕方のない状態とも言えます。なぜなら、人間の感情の仕組みとして、不快を感じると、不快に注目してしまう性質があるからです。そのため、危機的な状況に陥ると、どうしてもその状況にとらわれ続けてしまう。いわば、アラートがずっと鳴っているような状態であり、そうなると「人に助けを求めればいい」という楽観的な思考を持つ余裕がなくなってしまうのです。

そんな心を立て直すために、他者に対する「上手な助けの求め方」はあるのでしょうか? わたしは、オーストリアの心理学者アルフレッド・アドラーが提唱した、「共同体感覚」の考え方が手がかりになると考えています。これは、人は家族や社会の一員として、お互いに承認し合える居場所を持ってはじめて幸せになれるという主張です。

共同体感覚とは、特定の人に一方的に頼りながら生きていくような依存感覚ではなく、お互いに補い合うことで、共同体(社会)が成り立つと感じる感覚です。つまり、自分が誰かに助けを求めること自体が、補い合いのひとつの役割を果たしており、それこそが、人が人とともに生きていくという意味になります。まず、そんな考え方を知ってほしいと思います。