圧倒的に戦力差がある、強敵、難敵に対峙する場合、どのように立ち向かっていけばいいのか——。スポーツに限らず、ビジネスシーンでも同じような問題に直面します。名将として鳴らした野村克也さんは、「弱者には弱者の戦い方がある」と生前語っていました。難敵に対して、野村さんは様々な方策を取っていましたが、そこにはどんな戦略があったのでしょうか。終生のライバル・長嶋茂雄さんとのエピソードから紐解いていきます。

巨人・川上哲治、西武・森祇晶と同じ戦法はできない

ヤクルト、阪神、楽天と、低迷するチームの指揮を任された野村克也は、「弱者には弱者なりの戦い方がある」と生前、口にしていた。弱者が強者と戦うときは、間違っても対等に勝負しようと思ってはいけない。戦いとは騙し合いである。馬鹿正直に正攻法ばかりでもダメだし、やけくそになった奇襲ばかりでもダメなことはいうまでもない。機を見て効果的な奇襲を仕掛けるのが、弱者に残された戦法である。野村はそう考えていた。

ビジネスの世界において、戦略は「桃の種」と表現されることがある。見た目は汚くても、そのなかには美味しい果実になるエッセンスが隠されているという意味だ。しかも、その種には叩いても割れないほどの固い信念がある。野球における戦略もまた、それと同様であると野村は考えていた。

そんな野村の真骨頂が、日本シリーズにおける短期決戦の戦い方だった。弱者にとって、先手必勝は鉄則である。南海ホークスの選手兼任監督時代を含めて、野村は5度、監督として日本シリーズを戦っているが、初戦で負けたことは一度もなく、そのうち3度は日本一となっている。

巨人V9の立役者である川上哲治監督や、西武の黄金時代を築いた森祇晶監督はいずれも、「初戦はデータの確認で、本当の勝負は第2戦からだ」と語っていた。しかし、野村にいわせれば、それは「強者の戦い方であって、弱者は同じ戦法は取れない」と語っている。それは、どうしてなのか?