プロ野球の監督として、数々の功績を残してきた野村克也さん。彼を「名将」たらしめていたのは、その卓越した野球理論であり、巧みな人心掌握術でした。その際に大きな役割をはたしたのが「言葉」です。「野村克也は言葉の人である」とは、彼を知る誰もが認めるところ。野村さんは、どんな思いで言葉を操っていたのでしょうか。
「言葉を持たない指導者などなにものでもない」
野村克也は言葉の人である――。生前の野村克也を知る者がみな口にするフレーズだ。かつて野村は、「リーダーが力を発揮できる最大で唯一の媒介は、《言葉》である」と語っている。リーダーが発する言葉が、どれだけ部下の胸を打つのか? その言葉にこそ、リーダーの値打ちがあり、「リーダーが発する言葉で部下を感動させなければならない」とまでいっている。
ヤクルト、阪神、楽天監督時代、「長時間ミーティング」が野村の代名詞だった。自分が目指しているのはどんな野球なのか? その実現のために、選手たちに何を求めるのか? それを伝える手段は「言葉」しかない。だからこそ、野村は表現力を磨き、説得力のある言葉を投げかけるように努めていた。その結果、晩年の野村は「言葉を持たない指導者などなにものでもない」とまで言い切っている。
信頼されるリーダーの大切な条件のひとつとして、「説得力のある言葉を備えているかどうか?」ということを、野村は重視していた。「説得力のある言葉」を持つためには、様々な知識、経験、視点が求められる。部下に、「この人はよく勉強しているな。この人の考え方はとても参考になるな」と思わせることができてはじめて、リーダーに対する信頼や尊敬につながっていくのである。