1on1マネジメントは、部下の「信頼残高(相手との信頼関係や安心感のこと)」が多い状態にあってはじめて、有意義なものとなります。前回に続き、部下の信頼残高を増やすためのコミュニケーションにおけるテクニックをお伝えしていきます。
相手の話を否定しない「同意型」の受け答えをする
1on1マネジメントは、個々に個性や考え方の異なる部下に合わせたマネジメントですから、部下との対話を通じて、部下の性格、得意・不得意などのパーソナリティ、将来のやりたいことや現在の思いなどを深く理解することが必要です。また、深い話をするためにも、あなたの指導やアドバイスに耳を傾けてもらうためにも、あなたへの安心感や信頼感といった「信頼残高」を多く保つことが欠かせません。
そのための第一歩として、前回は、自分が話すのではなく相手の話にとことん耳を傾ける「傾聴」についてお話ししました。今回は、一歩進んだ関係構築のための「承認」のテクニックをお伝えしましょう。
さて、みなさんが普段、他人の発言に対して最初に発する言葉は「同意型」ですか? それとも「反論型」でしょうか?
どういうことかというと、相手の発言に対して「いいね」「面白いね」「なるほどね」といった同意型(Matcher)の受け答えを心がけているのか、「いや」「でも」「しかし」といった反論型(Mismatcher)の受け答えが癖づいてしまっているのか、ということです。
「うん」「いいね」「そうだね」「なるほど」
「面白い意見だね」「君はそう感じるんだね」
「でもね」「ただね」「そうかな」「う〜ん」
「僕はそう思わないな」「ちょっと違うかな」
反論型の受け答えをしがちな人は、意識的に同意型で返すよう習慣づけてみてください。それだけで、相手との関係性は大きく改善します。つまり、信頼残高が増えるということです。なぜなら、わたしたち人間は「否定される」ことが嫌いなのです。自分の言うことをいちいち否定的に返してくる人よりも、肯定的・共感的に返してくれる人を無意識レベルで好きになることは間違いありません。
なかには、「そんなことはない。わたしは反対意見を堂々と述べる人も好きだ」という人もいるかもしれません。ですが、それは次元の高い意識の話であって、いまお伝えしているのは無意識レベルの話なのです。無意識下では「自分の言うことを肯定してくれる人」は「自分の存在を承認してくれる人」であり、職場で存在が承認されるということは、「わたしはここにいていいのだ」と安心できることにつながります。職場というのは生活の糧を稼ぐ場でもありますから、この安心は生活保障にもつながっています。
ですから、「自分の言うことを肯定してもらえる」ことは、心理的な安全欲求を満たすことにつながっており、無意識レベルで相手に安心し、好意を抱くというわけです。つまり、「いや、どうかな」「わたしは違うと思うな」という反論的な受け答えが癖づいている人は、いつも相手に無意識レベルで不安やストレスを与えているともいえます。それが部下にとっては、「気に食わない」「信頼できない」という敵対心につながりやすいのです。
この同意型と反論型のコミュニケーションの違いは、職場の人間関係だけでなく、プライベートの関係、とりわけ夫婦関係でも大きな影響を与えます。例えばあなたのパートナーが、「コロナはまだ油断ならないね」とあなたに言ったとして、「でもさ、だいぶ弱毒化しているし」「それは高齢者に限った話でしょ」と否定的に返したとします。そんな会話が日常化しているようでは、コミュニケーションは盛り上がらず、関係は冷えていくことでしょう。
逆に、同じような内容を返すとしても「心配だよね。弱毒化したにしても感染者は増えているし」「確かにね。高齢者は特に心配だね」と、肯定的・共感的な表現をすれば会話は盛り上がり、パートナーとの関係性は悪くはなりません。
特に男性は、上司には同意型でも部下には反論型になっているケースが見られます。ロジカルに受け止めるアリ系タイプはまだしも、感情を重視するキリギリス系タイプの部下には嫌われやすいので、改善を試みてください。