インターネットを検索すると、快眠や疲労回復のための情報が溢れている。しかし、それらが本当に医学的に正しいのかどうか、素人には判然としないのも事実。そこでコレ。疲労回復と睡眠についての研究を続ける専門家に教えを請うた。
「良質な睡眠」でしか疲れは改善できない
「最近、すぐ疲れて日中も眠い」「寝ても疲れがとれない」「夜中に目覚めたり、早く起きてしまう」といった不調を感じてはいないだろうか。
「今の医学では、良質な睡眠をとること以外で、こうした疲労を回復させる方法はありません」と断言するのは、東京疲労・睡眠クリニックの梶本修身院長だ。疲労医学を専門とする梶本氏は、疲労の原因、軽減物質、克服法の開発や研究を行いながら、疲労や睡眠障害に悩む患者の治療にあたっている。そして長年の研究のなかで、「肉体的疲労も精神的疲労も疲れの仕組みは同じで、自律神経の中枢の疲れが原因」であることをつきとめた。
自律神経とは、呼吸や消化吸収、血液循環、体温、心拍数などを調整し、人間の生命活動のバランスを整えている神経のこと。運動により心拍数が上がったり汗をかいたりするのも、自律神経の中枢から体の各部分に命令が出ることで起こる。運動をした疲れは筋肉を使ったからと思いがちだが、それは間違いだ。
「息を吸って体内に取り入れられた酸素は、脳や筋肉などで消費されます。このときに生まれる活性酸素は酸化作用を持っていて、体内に侵入したウイルスなどを破壊するのに役立つのですが、同時に細胞を傷つける力も持っています。人間の体には活性酸素から細胞を守る機能が備わっているものの、激しい運動などにより細胞を酷使すると、活性酸素が極端に増えてしまいます。そうすると自律神経の中枢では神経細胞がサビつき、傷ついた(酸化した)状態になる。それが疲労なのです」
図1のように、自律神経機能は年齢とともに低下する傾向にあり、20代男性で約1800あった能力が、40代男性は約半分に減る。
「疲れやすいのは、年をとって体力が落ちているせいだ。睡眠をとるより、運動をして昔のような体力をつければいい」と体を鍛えている読者もいるかもしれないが、むしろ逆効果だという。
「筋肉は年をとっても増やせますが、自律神経の機能は確実に老化します。筋力を鍛えて若い頃と同じ重さのバーベルを持ち上げることはできても、運動による呼吸・心拍の調整機能は確実に低下しています。自律神経機能が年々低下しているのに、心拍や呼吸、血圧などの調整が必要な激しい運動をすると疲れはたまる一方です。激しい運動で酸素の吸入量が増えれば、活性酸素が増え、細胞を守るシステムが処理できる量を超えると、自律神経の中枢が酸化されて疲れる、という悪循環が起こります」
運動だけでなく、ハードワークをしたとき、達成感を感じて疲労が吹き飛ぶこともあるが、「それは脳の錯覚。人間の場合、意欲を感じる前頭葉が発達しているため、疲れを隠してしまうのです。いわば、隠れ疲労で、それこそ蓄積したら危険です」。