時代が変わると仕切り直しになってしまう教科書とは違って、現実の歴史とは1本のタイムラインで今日までつながっている。人口、経済、気温、身長の各データから見えてくる真実とは!?
人口減がもたらすパラダイム転換
日本の人口は2008年、1億2808万人をピークに減少に転じました。国立社会保障・人口問題研究所は「このままいけば2053年には1億人を割り込み、2110年には4286万人になるだろう」と推計しています。
国の将来がしぼんでいくようで寂しい印象を受けますが、日本の人口動態を見ると過去にも「縄文晩期」「鎌倉時代」「江戸時代中期」と、3度の人口減を経験していたことがわかります。
いずれも直前には大きな人口増の波があり、それをもたらした要因が失われるか限界に近づくことで、人口減に転じました。そして、人口の低迷/減少期には必ず、次世代の扉を開く“パラダイムシフト”が起きているのです。たとえば、縄文中期まで日本列島は気候の温暖化が続き、狩猟採集の暮らしを営む人々を養うに十分な食糧がありました。ところが、縄文晩期には寒冷化が進んだために食糧不足になったのです。人口は26万人から8万人(諸説あり)へと3分の1以下に減りましたが、「水稲耕作」が始まって食糧を計画的に確保できるようになり、弥生時代の人口増加へとつながりました。
そうして奈良時代に人口は450万人ほどまで増えますが、平安後期には耕地拡大が限界に達し、頭打ちになります。さらに荘園制で領地の奪い合いが始まり、鎌倉時代には2度目の人口減に見舞われるのです。この危機を乗り越えた要因は、治水や新田開発で生産力を拡大できたことでした。
江戸中期には新田開発が限界に近づいて土地を相続できない次男・三男が増えて晩婚化が進んだことが、人口減の原因となりました。これを打破したのは社会システムの近代化、例えば薪などの自然エネルギーから石炭石油など鉱物エネルギーへの転換でした。
9000万人で人口減は止まる!?
現在は明治以降に始まった人口増が限界に達し、人口減に転じたところです。このトレンドには抗いがたく、何をしてもすぐには人口増には転じません。人口減の原因は何であり、どうすれば食い止められるのか、答えが見えているわけでもありません。
しかし、だからと言って何もせずにやり過ごすわけにはいきません。これからの時代に我々が何をするか/何を見つけるかで、次世代がどのような社会に生きるかが決まるのです。
自然エネルギーの普及が道を開くかもしれませんし、IT/IoT技術の進化が切り札になるかもしれません。私は行動経済学や心理学からのアプローチがヒントになると思っていますが、いずれにせよさまざまな模索・挑戦の中から答えが見つかるのだと思います。
2110年に4286万人という推計は、あくまで「このまま何もしなければそうなる」ということで、数字がひとり歩きしている感があります。そうした中、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部は「2040年までに合計特殊出生率2.07を達成すれば、2110年の人口は9026万人となり、その後の人口を横ばいに推移させることができる」という推計を出しました。
荒唐無稽と笑う人もいましたが、私は「何もしなければ4286万人だが、手を打てば9026万人までで食い止められる」という数字が示された意味は、大きいと思っています。つまり我々には、子や孫に残す社会の未来を選択する余地があるということです。
1947年、静岡県生まれ。静岡県立大学学長。著書に『愛と希望の「人口学講義」-近未来ニッポンの処方箋-』ほか多数。
江戸は小氷期で寒く冬は雪景色だった
冷夏が招いた江戸三大飢饉
地球の気温は暖かい時期と寒い時期を交互に繰り返しながら、大きなトレンドの中で変動しています。ざっくりとした時代ごとの寒暖を言うと、縄文時代は暖かく、弥生時代には寒くなり、平安時代にはまた温暖になり、江戸時代は再び寒くなりました(14世紀から19世紀半ばは「小氷期」と呼ばれます)。
もちろん平安時代にも底冷えのする寒い冬はありましたし、江戸時代にも猛暑の夏がありました。この気候区分は、数百年という長い時間軸で特徴づけたものであり、その前提で、江戸時代は「総じて寒かった」ということが言えます。
近年、東京で雪が積もるのは珍しいですが、江戸の錦絵には雪景色の風景が数多く描かれています。また、1780年代には両国川や浅草川が結氷したという記述も古文書に残っています。
しかし、人々の生活や幕府の経済政策に大きな影響を及ぼしたのは、冬よりも夏の気温の低さでした。「江戸三大飢饉」が起きたのは、いずれも例年よりさらに気温が下振れした年です。当時は気温を数値データとして記録して将来を予測する術もなかったため、人々は凶作に備えることもできず、異常気象の被害をもろに受けることになってしまったのです。
江戸時代の寒い時期がいつまで続いたかには諸説ありますが、幕末には猛暑の夏が何度か続いた記録があり、1850年頃で終わったと考えられます。とくに人口100万を抱えた江戸の人口密度は世界有数であり、シーボルトの記録によると1800年代前半には、瓦屋根の蓄熱で現在の「ヒートアイランド」に似た現象が起こっていたようです。
「小氷期」以降の地球は、再び温暖化に向かいます。20世紀に地球の平均気温は約0.74度上昇しましたが、東京の年平均気温は地球温暖化とヒートアイランド現象の影響で2.47度も上昇しています(東京では第2次世界大戦前から明瞭なヒートアイランド現象が観測されている)。
ところが2000年頃から、地球規模の気温上昇には上げ止まりの傾向が見られます。これは「地球温暖化の停滞期(ハイエイタス)」で、太平洋の海水温に見られる10~十数年規模の変動や、地球温暖化の熱が海洋に吸収されたことなどが要因と考えられています。
ハイエイタスはおそらく10~20年で終わると見られ、今後はまた温暖化が加速する可能性があります。この間にいかに世界がCO2排出量を抑制する策を見つけられるかが、人類が持続的な発展を継続できる鍵になるかもしれません。
東京都立大学理学研究科博士課程修了。神戸大学国際文化学部で学振特別研究員、2009年に成蹊大学講師、翌年より准教授。