アパホテルの元谷芙美子社長は、社員を“わが子”のように大切に思っていると言います。たとえ成績が振るわない社員がいても、とにかく褒めて伸ばす――。「褒める」と「甘やかす」は違います。社員が成長してくれる「褒め方」を教えます。(2022年9月5日レター)

愛情を注ぎまくる。

私のリーダーとしてのスタイルを一言で表現するなら、こうなります。社員に対して「大切に思っているよ」という気持ちを注いで、注いで、溺れさせるほど注ぎます。私の“愛情経営”は社員全員を家族のように思い、いたわり、信頼し、支え合う関係性を生み出すものです。

私にとって、社員は全員わが子です。皆が可愛くて仕方ない。「実の子同然に……」という表現がありますが、本当に実の息子と変わりなく可愛がっています。

従業員数は国内ホテル部門だけで約3000名、グループ全体では約4000名に上ります。こんなにも大きな家族をつくれた私は、なんて幸せ者なんだろうと思います。私は愛情表現を隠さないタイプ。顔を合わせれば必ずその子の名前を呼んで、声をかけます。

「○○ちゃん、今日も可愛いね。キラキラ輝いてるよ!」

「○○くん、最近ますます頑張ってるよね。素敵だよ!」

思っていることは100%余すことなく伝えます。気持ちを伝えるときにテレてはいけません。相手に違和感を与えますからね。業務中や会議のときは「○○さん」と苗字で呼びますが、エレベーターや廊下で顔を合わせた時には「ちゃんづけ、くんづけ」で親しみを込めて呼んでいます。そのほうが、相手も私のことを近しいと感じてくれるはずです。

現在の本社(東京・赤坂見附)には社長室がありますが、私はいつも社員たちがいる1階の受付や各部署のフロアにいます。だってお母さんが自室に籠っている家庭なんてないでしょう。いつも子どものことを気にかけて、見守って、元気にしてあげるのが母親である私の役目なんです。社員は全員「社長は自分のことが大好きなんだ」って思ってくれていますよ。

私は、言い過ぎというくらいヨイショします。愛情をたっぷり注がれ、いつも優しく見守られ、頑張りを認められて褒められたら、誰だって嬉しいし「もっと頑張って褒めてもらいたい」とさらに努力したくなるでしょう。営業成績が振るわない子も、褒め続ければやがて伸びてくれます。私には高度なマネジメントテクニックなんてないけれど、情が深くて社員を心から愛していることだけは、どこの社長さんにも負けません。愛を注いだ分だけ、社員たちが一生懸命会社を大きくしてくれる。それが私の実感です。

愛情を注ぐということは、体を労わることでもあります。「おはよう! 今日も元気?」なんて声をかけるときは、ちゃんとその子の顔や肌の調子、目の輝きまで、敏感にチェックし心から気遣ってあげるのが親としての務め。顔が土色で肌もザラザラだった部下がいましたが、「今日は保険証を持ってないし、忙しい」と渋る本人の手を引っ張って病院へ連れて行ったことがあります。検査の結果、「1日放置しただけでも危ない状態だった」という診断が……。体を粗末にするなんて、私が許しません。社員の営業成績が落ち込むことより、健康が損なわれていくことのほうが、よっぽど大問題です。

愛に見返りはありません。「私はこんなに愛情をかけているのに、なんであなたはそれに応えてくれないの!?」と相手を責めるのは筋違い。愛情は一方通行が基本です。成績優秀な社員には、さらに成長できる環境を与えてあげる。成績が振るわない社員がいたら、もっと目をかけてあげないといけません。「大丈夫だよ! 私がついてるからね、もう安心だよ!」と強く励まし、営業の手助けをしてあげることもあります。

就職とは結婚と同じく、相手が自分を選び、自分も相手を選んでできる縁(えにし)です。必然という運命の中によって出会えたのですから、これはもう家族と一緒。「この会社に入って良かった」「こんな社長に出会えて良かった」と言ってもらいたいじゃないですか。

社員には溢れるくらいの愛情を注ぐ、いつも気にかけ声をかけ「私はあなたが大好きなんだよ」という気持ちを毎日いっぱい送ることが、私の“子育て術”です。(つづく)

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