人間の集中力は、そんなに続くものではないことは、誰でも身に覚えがあるのではないでしょうか。その集中力を持続可能に保ち、最大限に生産性と効率性を引き出せる手法に、「ポモドーロ・テクニック」があります。ポモドーロはイタリア語でトマトのこと。どんな技術なのでしょうか。

最も集中力を発揮しやすい時間帯

「深夜の作業中にビルが端末の前でうたた寝しているのをよく見た。コードを打ち込んでいる最中に、徐々に身体が前方に傾いていき、ついには、鼻がキーボードに当たってしまう。そのまま1、2時間眠ったあと目を覚まし、薄目でスクリーンを見て2度ほどまばたきをすると、すぐに何事もなかったように作業を続行する。本当に信じがたいほどの集中力である」

ここに登場する「ビル」は、米国マイクロソフト社の創業者であるビル・ゲイツ氏のことです。まだ創業から間もない頃、「ALTAIR BASIC」のプログラムを開発していたときのエピソードを、共同創業者のポール・アレン氏が自著『ぼくとビル・ゲイツとマイクロソフト アイデア・マンの軌跡と夢』の中で紹介していました。偉大なる起業家は、並みの人間では推し量れないような、高い集中力を持ち合わせているようです。だからこそ「マイクロソフト帝国」を築き上げられたのでしょう。

ゲイツ氏のように昼夜を問わず集中力を発揮するのは、普通の人間には「まず無理」と言わざるをえません。すぐに取り組めそうなのは、1日・24時間のサーカディアンリズムのなかで、最も集中力を発揮しやすい時間帯を探して、そこで重要な仕事を一気に片付けることでしょう。そして、そのベストな時間帯と目されているのが「午前中」なのです。

もちろん、理由があります。まずはサーカディアンリズムにより脳の働きが高まる時間帯があるのです。そして、午前中のように起きてからしばらくの間は、脳の疲労も溜まっておらず、脳も元気に働いてくれています。さらに、男性ホルモンの「テストステロン」の分泌が1日の中で夜明け前から午前中にかけて高くなるのもその理由です。男性ホルモンというと、骨や筋肉を作り上げるのに大きな働きをすることが、よく知られています。でも、テストステロンの働きはそれだけではありません。人の性格や考え方、社会性などにも影響を与えることがわかっています。

意欲、集中力、判断力を高めてくれる働きのあるテストステロンの分泌は、1日の中では夜明け前から午前中にかけて高くなる。(出所:Wright, Jonathan V; Lenard, Lane. Maximize Your Vitality & Potency for Men Over 40 (English Edition) をもとに編集部作成)

仕事の面では、意欲や集中力、記憶力、判断力などを高めてくれる働きがあります。だから、今後の経営の方向性を決める会議だったり、ロイヤルカスタマーとの商談だったり、重要かつ最優先で取り組むべきもので、認知負荷が高い仕事は午前中にスケジューリングして、バリバリとこなしてしまったほうがいいのです。

テストステロンは、男性の場合、約95%が精巣の中で、残りの5%が副腎で合成され、その後に分泌されます。女性の場合、量は男性の10分の1~20分の1程度ですが、副腎や卵巣からテストステロンが分泌されています。

そのテストステロンの分泌のコントロールは脳の中で行われていて、「脳下垂体」から分泌される「性腺刺激ホルモン(LH)」が増えることで、テストステロンの増産が促されます。逆にテストステロンが十分にある状態になると、LHの分泌が抑えられ、テストステロンの分泌も抑制されるようになるのです。