人間の脳を人間の脳たらしめているのが前頭前野。その機能の中でも、最も重要なものの一つがワーキングメモリです。日々の仕事の処理能力を高めるためには、ワーキングメモリを最大限活用する必要があります。まずは、あらためてその働きについて解説します。

思考や創造性などの中枢を担う「作業記憶」

「ワーキングメモリ」については、これまで何度か触れてきました。おさらいも兼ねて、その機能についてあらためて見ていきましょう。

脳の中で社会性やコミュニケーションに大きく関わっているのが、「大脳」と「前頭葉」の最前部に広がる「前頭前野」です。人間と他の動物の脳を比べたときに、最も違うのがこの前頭前野なのです。人間の前頭前野は大脳の中の約30%を占めます。動物で最も人間に近いとされているチンパンジーでも20%に及ばないのです。この前頭前野は思考や創造性など、いろいろな機能と関わりがあって、高次脳機能の中枢を担っています。そして、ワーキングメモリもその機能の1つなのです。

ワーキングメモリを日本語に訳すと「作業記憶」になります。「メモリ=記憶=情報」であり、五感を通して脳の中に入ってきた情報は、ワーキングメモリ上に置かれ、「ワーキング=作業」として処理されます。

例えば、相手が言ったことをワーキングメモリに乗せておき、それに答えるための必要な情報を「長期記憶」から引っ張り出してきます。そして、それらの情報を参照したり組み合わせたりしながら新たな情報を作り出し、答えとして適切かどうかを判断したうえで、「OKであれば口から発する」という判断を 行なうのもワーキングメモリによる処理です。

記憶に関しては、ワーキングメモリの中心的役割を果たしている前頭前野と長期記憶に関連が深い海馬との間に神経細胞同士の連絡があることから、記憶情報のやり取りも行なわれていることが明らかにされてきています。

ワーキングメモリと関係が深い前頭前野と長期記憶に関連が深い海馬との間で記憶情報のやり取りも行われていることが明らかになってきている。

前にワーキングメモリをパソコンのデスクトップを動かす記憶装置RAM (Random Access Memory)にたとえて説明しましたが、ワーキングメモリでの作業は、パソコンのデスクトップや実際に仕事に使う「テーブル(作業台)」で行なわれる様子にたとえられます。五感を通して入ってきた情報が、テーブルの上に続々と乗せられていくと、すぐに一杯になってしまいます。そこで、いまの自分にとって特に意味のある情報だけに注目し、ワーキングメモリの上で一時的に保持します。それから、先ほど見たような一連の処理が行なわれるのです。